第47話 隣り合わせで夢を見よう④
【恋愛ゲーの世界に転生して数か月経ち、夏休みを迎えた宮田景人。
予定より早く来たヒロイン達の作った料理を当てるクイズが突如スタート。
苦戦を強いられながらも全問正解し、ようやく勉強会が始まった……】
三人が家に来て、暫くが経った頃――
「や、やっと書ききった~! 感想文!!」
「お」 「わあ、おつかれさまです」
穂乃花の喜びを含んだ声が、リビングの隅から隅まで響き渡る。
勢い余って後ろに倒れこんだ結果、「ぐえっ」なんて声も響いてしまったけども。
何はともあれ、このお泊り会での目標である“勉強会”はもう少しで終わるか。
「ナナちゃん乙でー……ああっ! そこに罠は反則っしょ!」
「ふっふっふ! 普段からお兄ちゃんと戦ってる私に死角はありません!」
「いつまでやってんだお前ら」
数時間前に課題を全て終わらせた可憐は、かなめと共にテレビゲームに夢中だ。
話を聞くところによると、今までゲームをやったことが無いらしく驚きである。
まあ何かと理由はあるんだろうが、別に聞くつもりもないので置いておこう。
「――んん」(あと一時間くらいで来るな……)
テレビの上にある時計をちらりと見れば、もう短針は五時を過ぎていた。
夏という季節の関係上まだまだ外は明るいけど、夕食には後もう少しってところか。
「流石に休憩しよーっと。ねね、そのゲームって三人対戦出来る?」
元より注文していた出前が届くまで残り一時間ほどでタイミング的にも丁度いい。
勉強自体の区切りもついたし、とりあえず気分転換といこうじゃないか。
「春野さんも、良かったら一緒にやりましょう」
みんなから一歩引いて勉強をしていた春野さんは、俺の言葉に微笑んだ。
残念ながら四人対戦用なので、ずっとプレイしてるかなめは交代しないとな。
【起きて】
***
「扉の向こうに居るのは、一体誰だろうな?」
ビクリと、洗面所にいる黒い影が大きく動いた。
今日、最初で最後の一人になれる貴重な時間だというのに……。
「普通、そういうのは男側がやるものだと思うが」
風呂の中で温まりながら、扉の先に居る人物が誰か考えてみよう。
まず今の状況として、かなめは間違いなく違うことは分かる。
何故ならあいつはゲームをやり続けた挙句、出前として届いた寿司を沢山食べてダウン中だから。
「流石に扉は開けるなよ?」
ということは残り三人に絞られる。
だが、皆がリビングでくつろいでる時に忍び寄る真似を春野さんがするだろうか。
断じてしないと理解しているぞ俺は。つまり穂乃花と可憐のどちらだと思う。
しかし影からは判別できない……かなめ程特徴的な髪型ではないのを悔やんだ。
(そろそろ出ようと思ってたし、折角なら脅かしてやるか)
タオルをしっかり腰部分に巻き、絶対に恥部が見えないように隠しておく。
穂乃花にしろ可憐にしろ、普段の性格を考えればこれくらい構わないだろう。
俺は向こうに居る人物に悟られないよう静かに浴槽から出て扉に近づいた。
さてさて、驚き恥ずかしがる顔を拝んでやるとするか!
「今日は随分と大胆だな!!」
「きゃっ」
……んん? 今のしおらしい声は、穂乃花でも可憐でもないぞ。
扉を勢い良く開け、立ち込める湯気が消えて現れた女性はまさかの存在。
「あの、えっと、宮田くんの服……リビングに置いてあったから、その」
「ご、ごめん! 俺なんか勘違いして、あッ一回扉閉めるよ俺!」
天使こと春野美玖さんでした。俺はなんて過ちを犯してしまったのでしょう。
二人して焦りまくり、危うく床で滑りかけながら再び浴槽に舞い戻っていく。
「俺、服忘れてたんだね……ありがとう」
肩までしっかりと浸かりながら、少しだけ開いた扉の向こうに居る彼女と礼をする。
下手したら勘違いされそうな状況に陥るところだったぜ……危ない危ない。
「これくらい全然、逆にうれしいというか、んと、それじゃあ失礼しますっ!」
「あ」
しどろもどろに発言する春野さんは、俺の服を籠の上に置くとこの場を後にした。
余りにも一瞬の出来事でまだ上手く把握できないまでも、それは貴重な一瞬である。
(色んな意味で、のぼせそうだ……)
嬉しいのか恥ずかしいのか、自分の気持ちに整理が付かない俺は暫く浴槽に居た。
【起きて】
***
「んじゃ、このクジ引いて青色だった方が俺の部屋な」
一枚の紙から作ったお手製のくじ引きを、彼女達の前に見せる。
何を隠そう今日はお泊り会なので、寝る場所が必要なわけだが……。
流石にリビングで寝かせるってのは配慮が足りてないとかなめが言ってきた。
「私右利きだから一番右のにするね!」
「何の関係があるんだそれ」
ということでこのクジを彼女達が引き、色に合わせて寝る部屋を決めるという訳だ。
青が俺で赤がかなめの部屋――なのだが、俺の方は若干手狭なので一つしかない。
「ちょい待ち! 宮っちの性格的に端っこにありそうな気がするんだケド」
「あと二つしかないから端もくそも無い」
つまりこのクジは1/3で俺の部屋、3/2でかなめの部屋で寝るガチャということ。
正直誰と寝ても俺は幸せなので文句など有る訳もなく、不正も当然していない。
三人の中で一人が男の、加えて狭い部屋で寝るのこのくじ引きは――
「残り物には福があると思うので…………あ!」
「わたし、ですっ」
見事、春野美玖さんが当選した。どうやら彼女は神様に愛されているようで。
赤のクジを手にした二人はかなめの部屋となる。中々面白い組み合わせだな。
「久しぶりに景ちゃんと寝たかった~……けど、
かなめちゃんと一緒なのも嬉しいから全然良いや!」
「じゃあ私の部屋で残った課題、終わらせましょうねー」
「え」
おお、引きずられながら叫ぶ穂乃花は昨日も見た気がする。
うちの妹は案外勉強が出来る方だから、しっかりと教えてもらえばいい。
可憐もいることだしな……っとと。
「それじゃあ春野さん、俺の部屋行きましょうか」
「は、はい」
何故だかいやらしい言葉に聞こえるが、決してそんなことは無いのである。
ただ男女が一つ屋根の下で寝るだけ。――いや結構凄いかもしれないなこれ。
(ちゃんと寝れるかな、俺……)
【起きて】
【***************】
大きな月が空に浮かび上がっている。とはいえ、普段と違う様子はない。
床に敷いた布団は俺が、そして普段の自分が寝ているベッドに春野さんが。
「…………」
あの後、二組に分かれた俺たちは寝る前に自由な時間を過ごしていた。
と言っても穂乃花はギリギリまで課題に追われていたのであまり会えなかったけど。
可憐が俺の部屋に来て、前のかなめの様にベッドの下を覗いたりして。
「…………春野さん」
実際俺は見られて困るような物もないし、無理に止めようとせずにそれを眺めてた。
途中から春野さんも部屋を散策して……これは、俺の気のせいなんかじゃない。
「凄い偶然だね。こんな夜中に、二人揃って目が覚めるなんて」
春野さんは部屋の勉強机――正確に言えば仕舞っておいた教科書を手に取っていた。
ごく自然に、俺ですら後々気づいたほどだ。彼女は、隠していた“あれ”を見たはず。
「きみは」
「一体誰なんだ?」
この世界に於ける物事が書かれた、説明書を。
俺は布団から動かずに、ベッドから降りて窓に近づく春野さんをただ眺める。
不思議な感覚だ。彼女は彼女だと分かっていながら、そんな質問をした意味。
「宮田くん」
窓から届く月明りに照らされた春野さんは、俺の名前を呟いてこちらを向いた。
胸がざわついて、奇妙な緊張感に陥る。
「実は私、あなたと同じ存在なんです」
違和感は最初からあった。今日、ヒロイン達が来た時から何かがおかしかった。
その原因は突き止められず、気にしない事にして楽しんでいたけれど……。
今、彼女が言った言葉の意味は一体? 分からない、分からない。
「どういう……こ、と」
少しづつ、意識が遠のいていく。あの時と同じだ。
意地でも起きててやる。春野さんが目の前に居るのに、気を失ってる場合…なのか。
「“今”思い出して、多分きっとすぐに忘れてしまうけど」
「何年も、何年もあなたを待っていたから」
春野さんが……何かを思い出した? 何を……すぐに忘れるんだ。
薄れる意識の中で聞こえたその言葉を必死にかみ砕き、理解しようとする。
しかし答えに届かない。“何年も待つ”という言葉の意味、真相……が。
春野――――さん。
【***************】
「起ーきーて!」
「……」
目を開けると、心配そうな顔をした穂乃花がいた。
状況を理解できないままに身体を起こし、周りを見れば可憐とかなめも居る。
「……もしかして俺、一番起きるの遅かったか?」
気まずそうにそう言うと、三人は大きく頷いた。それは非常に申し訳がない。
既に朝食を作ってくれている様子のかなめは、食パンの焦げを気にして部屋を出る。
可憐もメイク直しと言って出たので、俺は部屋で穂乃花と二人っきりだ。
……あれ?
「相変わらず寝坊助だなー景ちゃんは」
「な、なあ穂乃花。お前と可憐ってかなめの部屋で寝た」
「? そうだけど」
おかしい。居るはずの人が、居ないなんて。
「俺の部屋で寝たのは……春野さんだよな?」
少しづつ変わる日常。俺の命が尽きるまで、もう7か月しかない。
謎を解き明かさねば、この先平穏なハーレム生活は出来ないことを悟った。
ハーレム主人公とは、皆こうなのだろうか? それは分からないが――
「何言ってるの? 景ちゃん……」
「美玖ちゃんはお泊り会に参加してないよ」
こういう展開の方が、“愛”は深まるってもんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます