第46話 隣り合わせで夢を見よう③

前回第45話のあらすじ

【恋愛ゲーの世界に転生して数か月経ち、夏休みを迎えた宮田景人。

お泊り会が始まる時間までに、妹と共に家中の掃除をしなければならない。

ひと悶着ありながらもなんとか終わらせたが、その瞬間インターホンが鳴り……】



「……おい、なんだこの状況」


俺の目の前に並んでいる四つの皿。上には昼食に該当する料理が乗ってるわけだが。

非常に美味しそうな物が連続して続いてる中、明らかに一つ異物が混ざっている。


「この四種類の料理、誰が作ったか当ててみて!」


嘘だろ暗黒物質ダークマターかこれ。こういうのゲームとか漫画でしか見たことないんだけど。


(あ、この世界ゲームだったわ)


早く食えと言わんばかりに椅子に座ることを促され、抵抗なぞ出来る訳もなく。

嫌らしい笑みを浮かべた穂乃花達を視界に納めながら数十分前を回想した。


――――――

――――――――――――

――――――――――――――――――


インターホンが鳴り、玄関の扉を開けるや否や登場した三人衆。

「何故こんなに早いのか」と聞いたが、適当にはぐらかされてしまった。


まあ無理矢理聞くつもりもないんで構わない。いずれ分かるだろうしな……。


「わはーっ。久しぶりに入るね、ケイちゃんの家」


「お邪魔しちゃうよん」


丁寧に靴を揃える礼儀を見せる可憐と、それを見て真似をする穂乃花。

余りにも性格が出過ぎていて、そんな光景に少しだけ微笑む。


「お、お邪魔します」

「! そんなに畏まらなくても大丈夫だよ、春野さん」


彼女たちから一歩離れていた春野さんは、そう呟いて玄関に入ってきた。

今まで何度か見たことはあったが、その私服姿は言葉にできないくらい可愛い。


決して目立つ色合いでも服装でもない。しかし、彼女が着るから良いのである。

思わず見惚れそうになるのを抑え、三人をリビングに向かうよう伝えた。


(――夢みたいだな。春野さんが、俺の家に来るなんて)


既にリビングに着いた彼女たちとかなめの声を聞きながら、ふと思う。

最初は会話すらままならなかったのに、気付けば連絡先を交換……というかスマホをプレゼントして、同じ部活に入って、そしてお泊り会をするようになって。


「人生何が起こるか分からないもんだぜ……」


玄関のカギを閉め、俺は小さく呟いた。


――――――――――――――――――

――――――――――――

――――――



「人生、何が起こるか分からんな……」


少し前に放った独り言を、今度は違う形で周りに向け言い放つ。


そうだ。あの後リビングで勉強会を初めて、ふいに俺の腹の虫が鳴ったんだ。

そしたら四人が「作ってあげる」とか言い出して……その結果がこれだっけ。


最初は俺得の展開だとばかり思ってたが、蓋を開ければ地獄のゲーム開幕である。


まず俺から見て左手側にある麻婆豆腐、見た目は普通の出来栄えだが……。


「っ! み、水くれ」


「あ……ど、どうぞ」

あまりにも辛すぎる。誰かがふざけて作ったとしか思えないレベルで辛い。

続いてその隣にある料理、これに関しては普通に美味しい炒飯だったでグッド。


春野さんが渡してくれた水を飲みながら三品目であるオムライスを食す。

激烈に甘い。砂糖を丸ごとぶち込んだような味だが、食べれないことは無かった。


「ケイちゃんに食べさせる用だから、量も全然ないでしょ?」

ピンクのエプロンを着ている穂乃花に癒されつつ、俺はついに四品目を見やる。

形容しがたいこれは、恐らく卵焼き……だよな。多分、きっと。


「いよいよ最後の品だね~、宮っちは分かるかな?」


「余裕で全問正解してやるよ」(――さて、どう考えようか)

最後の料理を食べる前に、時間稼ぎとも称される考察をすることにした。


まず第一に、かなめは麻婆豆腐と卵焼きではない。

我が妹の手料理は普段からよく食べてるが、基本的にミスはしない子だ。

ただし非常に甘党のため、オムライスに砂糖を入れ過ぎた可能性はある。


そして穂乃花に関してだが、彼女は説明書に“料理上手”と書かれている安牌枠。

初めて食べたものの、まず間違いなく炒飯で確定だろう。


――となると、激辛麻婆豆腐&暗黒卵焼きのどちらかが春野さんということ。


「……………………」(これはヒジョーに難しい話だな)


正直なところ、この卵焼きを食べなくても誰がどれを作ったのかはもう分かる。

オムライスがかなめ、炒飯が穂乃花、流れ的に麻婆豆腐は可憐のやつだ。


「およ、たまに出るケイちゃんの考えてるときの顔だ」

「お兄ちゃんのこの表情好きなんですよね、わたし」


ならばもう食べずに答えを導き出すか? まあそれも悪くはないだろう。

しかし春野さんの料理を食べる事が出来るチャンスを見過ごすわけにはいかない。


例え彼女の料理が俺の好みに合わなかったとしても、それが何だと言うのだ。

春野美玖の手料理を食べるという事実だけで、俺は白米三杯はいけるぞ!


「いただきますっ!」



――――――――――――――――――――



「――く、食い切ったぞ。時間は掛かったけどな……」


彼女たちが家に来てもう一時間ほどになる。

本当ならば既に勉強を始めていてもおかしくなかったのだが、しかし。

出されたのなら残すわけにはいかない。元は俺の腹が鳴ったのが原因だしな。


「誰がどの料理を作ったのか、全て分かった」


食べ終わった食器を洗ってくれている穂乃花とかなめは俺の言葉に顔を上げる。


「穂乃花は炒飯」

「かなめはオムライス」

「可憐は麻婆豆腐」

「そして……春野さんは卵焼きだ」


。あいつも、料理が得意ではなかったんだ。

けど精一杯努力して、頑張って作るその姿がとても好きだったことを思い出す。

今回に関しては調理してる所を見てはいけなかったが、そんな事は関係ない。


「「「全問正解ー!」」」

「お、おめでとうございます!」

彼女たちの嬉しそうな顔、そして声が響き渡る。

中々に大変な戦いではあったが、今日の夜になれば良い思い出になるだろう――







「それじゃあ勉強始めるぞ。言い出しっぺのお前がこんなゲーム始めやがって……」


「ごめんなさーいっ!」


穂乃花に少しの小言を言って、ようやく俺たちの勉強会は始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る