第45話 隣り合わせで夢を見よう②
【恋愛ゲーの世界に転生して数か月経ち、夏休みを迎えた宮田景人。
ふとした穂乃花の提案により、自分の家で勉強会兼お泊り会をすることに。
彼女たちを初めて家に呼ぶイベントの中、春野美玖も泊まると言い出して……】
【8/20(日) AM7:00 宮田家】
「洗濯は全部終わったぞ!! そっちはどうだ!?」
「洗い物済んだから食器棚に仕舞ってる!」
家の中を飛び交う大声。俺と、妹であるかなめの大掃除作戦は進行中だ。
「了解! 俺はクローゼットに服を入れて……
お前まだこんな可愛いパンツ履いてるんだ――ぐほぉっ」
「次わたしの下着を物色したらぶん殴るから!」
いやもう殴られてるんですけど。というかこんなに痛かったっけ妹の拳って。
偶然目に入った“くまさんパンツ”に突っ込んだの確かに俺が悪かったけどな。
痛みに耐えながら洋服棚に洗濯物を収納し、次にやるべきは自室の掃除だ。
階段を上がって妹の部屋を過ぎると、奥にある扉の先が俺だけの特別な空間である。
右側にある母と父の部屋に関してはそもそも滅多に入らないので無視でいいだろう。
とりあえず残った自分の私服を、部屋にあるクローゼットに入れて両手を自由に。
その後は掃除機で埃を吸って床を綺麗にすると、何となくベッドに腰を落ち着ける。
(元から汚してなかったお陰で、俺の部屋は時間掛からなそうだな……)
現実世界の頃から多少の綺麗好きだったのが功を奏し、掃除の手間は省けそうだ。
座りながら部屋を見回しても気になる点はなく、何ならもう終わらせてもいいか。
「あ、そうだ」
と若干お気楽な考えをしていた俺が思い出したのは、ベッドの下にある“アレ”の事。
恐る恐る下を覗き、まだ残っていた埃を気にしながら取り出したのは説明書だった。
(これを見られるのはマズいよな……多分)
そもそも彼女たちが説明書を認識する事が出来るのかは不明だが、用心はしとこう。
以前かなめが俺の部屋に来た時、うっかり知られる可能性があったのを覚えている。
(仮に説明書を見られたら一体どうなるか。
知りたいような、知りたくないようなって感じだな)
この辺りの話題は非常に際どく、検証しようもんなら俺の身が危ないかもしれない。
一先ずこの説明書は勉強机にある教科書の間にでも隠しておこう。恐らく大丈夫だ。
「これは今日の勉強会じゃ使わない……っとと」
机に飾ってる写真立てをうっかり倒しそうになり、慌てて受け止め元の位置に戻す。
写真部が集合した一枚だが、偶然にも今日泊まりに来るメンバーは全員写真部か。
(やっぱ千代とか城花先輩が不利だよな、部活が違――「お兄ちゃんー?」……あ」
「やけに遅いと思ってたけど、掃除もせずに休憩するとは良い度胸じゃん……」
「いや待て待てさっきまで掃除してたから。だからその拳は仕舞おうぜ」
背後から聞こえた声の方を振り向けば、部屋の入口で仁王立ちしている妹の姿。
肝を冷やしながら時計を見ると、いつの間にか短針は8時を過ぎていた。
あ、これ俺が悪いわ。
「折角お兄ちゃんがお泊り会するって言うから手伝ってあげてるのに!」
妹の怒号と共に繰り出された拳を甘んじて受け入れ、俺はベッドに吹っ飛ばされる。
そういう所だけゲームらしくする必要なんて無いだろ、と思いながら。
「やーっと終わった! 思ったより時間掛かったぞ……」
リビングにある椅子に座り、自分の口から満足のいく掃除が済んだことを述べる。
まさか始めた当初から数時間使うとは思っておらず、今の時間は12時を過ぎた頃。
「お兄ちゃんお疲れ様。
はい、お茶でも飲んでゆっくりしてよね」
氷を増しましに入れた冷たいお茶を持ってきてくれたかなめが天使に見えた。
いや、元からなんだけども。
「かなめも手伝ってくれてありがとな」
「ん……も、もっと」
頂いたお茶を飲みながら礼を述べると、かなめは恥ずかしがりながらも嬉しそうだ。
その表情からは“褒めてほしい”という要求が言葉に出ずとも伝わってくる。
「お前は自慢の妹だよ……これからも助け合っていこうな」
「んふふ 別にこれくらいなら余裕だったけどね!」
わお可愛い。やっぱりかなめは怖い時とのギャッブが大変すばらしい塩梅である。
俺としても普段は言えない本音を伝えられるため、お互いwin-winの関係だな。
「――で、お泊り会のメンバーって誰なの?」
三人が来るのは夕方頃で、夕食は既に出前を頼んでいるためこっちで食べる訳だが。
そういえば言うのを忘れてた。というか聞かれなかったので知ってるものとばかり。
「皆お前が知ってる人だ……ああいや、一人は会ったことないかも」
穂乃花は言わずもがな、可憐も体育祭の時にご飯を食べているから顔見知りだろう。
ただし春野さんに関しては、俺の記憶が正しければ会った記憶がない…と思われる。
敢えて名前を出さないことで気になっている妹を尻目に、俺は笑ってノビをした。
彼女たちが来るのはまだ数時間先だし、とりあえず二人分の昼食を作るとしようか。
掃除疲れの休憩を癒して、この後の作戦等を立てる時間も作りたいしな。
「ま、夜になったら誰が来るのかは分か――
ピンポーン
俺が言葉を言い終わる直前、聞こえてきたのはインターホンの高い音だった。
おいおいまさか……といつの間にかフラグを立てていたと気づいた時にはもう遅い。
よく考えればあのヒロイン達が時間通りに来ると思っていたのが間違いなのである。
まあつまり何が言いたいかっていうと――
「景ちゃーん! 折角だから早めに来たよー」
「お昼から勉強すれば効率良くね? 早めに終われば遊べるし!」
「あ、あの……連絡もなく来てごめんなさい!」
「………………おう、いらっしゃい。ははは」
十分前集合ならぬ五時間前集合である。乾いた笑いで出向いた俺を、今だけ許せ。
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