第44話 隣り合わせで夢を見よう①

「えぇーーーッッッ!!」


穂乃花の驚嘆した大声が、俺たちの部室に反響する。

そこまでびっくりするとは思わず、逆にこちらが驚くばかりだ。


「もう皆、夏休みの課題終わっちゃってるの……!?」


「“ほぼ”な。面倒なやつは何個か残ってるが」


もう夏休みが始まって一週間過ぎのため、早ければ全て終わらせている者もいるか。

少なくとも俺は全体の3/4ほどは終了済みで、残りも今日終わらせるつもりである。


逆に穂乃花は殆ど手つかず状態。まあ最近忙しいから仕方がないのかね。

とりあえず俺を含めた周りの面々が課題の大半を終わらせてる事実に穂乃花は凹む。

「まーまーナナちゃん! まだ夏休みは長いし大丈夫っしょ!」


「偏見だけど可憐ちゃんは私と同じタイプだと思ってたわ……」


穂乃花を“ナナちゃん”呼びする可憐も、当然とばかりに課題を順調に進めているらしい。

ちなみに何故“ナナちゃん”なのかと言うと、俺の幼馴染おさ“なな”じみだから……とのこと。


まあ確かに可憐が言う通り、まだ期間はあるのだから焦る必要は無いと思われる。

というか俺たち写真部が活動中にこっちに来る余裕はあるんだから大丈夫だろ。


「課題の事を話してたら急に来やがって……城花先輩にどやされるぞ」


「城花さんなら笑って許してくれますよ、きっと」

「!」

カメラの手入れを終えた春野さんが、微笑みながら俺と穂乃花の間に入る。

そうか。春野さんは城花先輩と同じマンションだし、校外でも顔見知りなんだな。

「それに、穂乃花さんが居れば、賑やかになりますから」


「美玖ちゃんってば優しすぎる……あ、ちなみに課題の進捗はどう?」


「わ、私もあらかた終わってます」


天使のような春野さんに浄化されてた穂乃花は、その一言で再び現世に戻ってきた。


毎月の如く千代とテストで点数争いしてるんだから当たり前だろ、と心の中で思う。

というかそもそも、俺の周りにいるヒロイン達は秀才で優等生が多い。


千代は当然として、見た目はギャルの可憐だって常に成績は上位と耳にしている。

城花先輩は詳しく知らないが、まあ、あの人ならば運動以外もしっかり者だろう。


センリに関しては……どうなんだろうか? 基本苦手な教科は無い印象だが。

「――ん、どうしたんだい?」


窓の外を眺めて耽っているセンリは俺の視線に気づき、横目でこちらを見る。

穂乃花たちは三人で話が盛り上がってるようで、どことなく輪に入りづらい。

「別に。俺も外が気になってな」


陽の光が当たっている影響か、センリが浮かべる微笑は向日葵の様だ。

おもむろに彼女の元へ近づくと、言葉の通り窓越しから外を眺めてみる。

「趣味が合うねぇ」


もう何度も見た、いつも通りの景色だった。

運動部の奴らが居て、階下から聞こえる吹奏楽部の音色を耳にしながら。

この写真部の面々が今日も集まり活動を続ける。そんな、いつも通りの景色。

(体育館をよく見たら千代も居るしな……)






「じゃあ明日にでも勉強会とかどう!? みんな!」


「!」

ただただ無言で外を眺めていると、突然背後から穂乃花の声が聞こえてきた。

俺とセンリは二人揃ってその大きな声がした方向に顔を向ける。


一体何のことかと思ったが、成程。それで課題を終わらせようって事ね。

穂乃花からすればこれ以上ないほど切実な願いに加え、断る理由も特にない。


「あたしは全然OK丸だよん」


可憐が了承したのを皮切りに、俺も続いて首を縦に振る。

心底嬉しそうな顔をした穂乃花が可愛い。とても良い物を見ることが出来た。


「……で、どこでその勉強会をやるんだよ。

明日は日曜だから学校は短時間しか開いてないぞ」



「う! ……まあそれは、私の家でも全然良いんだけどぉ」


もにょもにょとそれ以上言葉を続けない穂乃花は、言い辛そうに口を開く。

その時の表情は“申し訳ない”という気持ちより、“恥ずかしさ”が勝っているようで。

まあ、つまり何が言いたいかって言うと、穂乃花の攻撃ってことだ。


「景ちゃんの家に行きたいなぁって」





「……ああ、別に構わな「やっぱりここに居たんだねー! 穂・乃・花!」……い」



俺が言い切る直前、ゆっくりと開かれた扉の向こうにある手に掴まれる穂乃花。

一瞬マジでビビったが、その声と共にひょっこりと出された顔を見て安心する。


「迷惑掛けたね写真部の皆! じゃあこの子はわたしが連れていくから!」


「いやああぁぁ待ってください明子さーんっ!

今とても大事な話をして――――」



嵐のように去っていった城花先輩は、穂乃花を連れて演劇部へと帰っていった。

あの様子じゃ向こうで頑張ってそうだし、俺たちから行く必要は無いだろう。

勉強会の事に関しては、学校が終わったらメールでもしようかね……。


「えーと、とりあえず宮っちの家で勉強会するって事でオケ?

ナナちゃんと、あたしと、勿論宮っちと……あ、センちゃんとミクミクはどーよ」


突然の出来事過ぎて思考が止まっていた俺たちの中で、最初に口を開いたのは可憐。

先ほど話していた案を改めて伝えたため、俺ももう一度首を縦に振った。


「――ボクは今回はパスにするよ。もう、全てを終わらせた身だからね」


飄々とした態度でそう言い切ったセンリは、誰にもバレずに俺へ目配せをする。

……あーなるほど。あえて気を遣ってくれているわけだな、お前は。


「早っ! もー終わってるとかデキる転校生じゃん」


実際全てを終わらせてるのは本当だと思うが、今回は有難く遣われるとしよう。

何故ならセンリは俺のハーレムを知っていながら接する現状唯一の人物だから。

(少し後ろから周りに気を配るなんて、素晴らしい奴だなセンリは……フッ)




「ただ一つ提案があるとすれば、勉強会のついでに家に泊まれば良いと思うよ」


……ん?


「あーそれイイネ! じゃあ宮っちが大丈夫なら泊まり込みって事で」


んん?


「あ、あの! 私も……ご一緒して良いですか?」


んんん?!






……こうして、いつの間にやらお泊り会が行われることになった。

しかも明日。あまりにも早すぎる。まだ心の準備が出来ていない。


そんな乙女のような心持ちで帰宅した俺は、急いで掃除を始めることにした――




――――――――――――――――――――――――


「宮田くん」


「実は私、あなたと■■■■■■です」


「今思い出して、多分きっとすぐに忘れてしまうけど」


「何年も、何年もあなたを待っていたから」


――――――――――――――――――――――――



俺はまだ知らなかった。

このお泊り会が、全ての“はじまり”に関係していたことを。

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