第41話 vs西園茜璃
――俺が住んでいるこの町の名前は、確か“
勿論元の世界には存在していない場所で、ここが何県なのかも分からない。
スマホの地図アプリを使い調べてみたところ、この町以外も存在するようだが。
「へえ、こんな裏道があったんだね」
「ああ。俺も最近見つけてな」
行けるかどうかは別として、ゲームというには余りにも広すぎるマップである。
説明書に書かれている“お店”を探すために散歩をしている俺とセンリだが……
現在の時刻は13:40。約30分ほど歩き続けているが、それでも見つからない現状。
自分たちが暮らしている近辺には存在しないのでは、という可能性が高まってくる。
「わ! 随分と見晴らしの良い場所じゃないか」
路地裏から山道に入っていき、そのまま登った先の丘に到着した俺たち。
この場所は
「おすすめスポットってやつだ。
まあ、ここでちょっとくらい休憩しようぜ」
ルートも違うため少し手間取ったものの、改めて来てよかったと思う。
写真部の部室で見た時のように、センリがその光景に喜んでくれているから。
一先ず休憩して、再び“お店”を探しに行くとしようかね。
「……嬉しいことに、休憩だけでは終わらないみたいだよ」
「え?」
そう呟いたセンリが見下ろしながら指を差した、その先。
遠くに見える派手な屋根と看板に書かれた文字に息を吞んだ。
あれはもしや……俺たちが求めていたモノがそこにあるのではないか?
ほんの少し傾いた太陽が視界にチラリと映り込む。手で遮って視界を凝らした。
「ここからなら良く見えるね、フフフ」
場所で言うと愛恋高校の裏門から出て歩道橋を渡り、角を曲がった突き当りの“店”。
上から見れば目立つ外装ではあるものの、中々見つけ辛い場所にあるじゃないか。
「……あれか、うわさの専門店ってやつは」
――――――――――――――――――――
「――ちなみになんだけど、キミはもう質問の答えに気づいてるかい?」
センリと共に丘を下り、地図を時折確認しながら目的の店まで歩いている途中。
ふと彼女が放った言葉に対して、俺は眉を強くひそめる。
「残念ながらまだ分からん。
普段とは違うと言っても、髪が伸びたとか私服が……とかじゃないんだろ」
俺の問いかけに「それはヒミツ」とだけ言い、センリは動かす足の速度を速めた。
一歩出遅れたことでその差は広がりを見せるが、特に追いつこうとも思わない。
むしろ普段より楽しそうな姿を、少し後ろから眺めるのも乙だからである。
「………………ん?」
普段より楽しそう――?
――――――――――――――――――――
「へえ……これが、キミの探していたお店かい」
一足先に到着していたセンリに追いついた俺は、何も言わずにただ頷く。
それは気まずかったからだ。まさか、こんな店だったとは思わなかったから。
「『女性用品多数! プレゼントに最適!』……だってさ」
壁に貼り付けられていたポスターを読むその声はどこか冷たく感じる。
“嫉妬”という言葉では片付けられないが、恐らく怒ってはいる……よな。
女性に贈り物を渡すためにこの店を探していたと捉えられてもおかしくないし。
「あー、そんなつもりじゃ――「もしかしてボクに渡すために!?」……な」
冷徹だと思っていた声色は途端に明るくなり、俺の耳と視界に入ってきた。
笑顔にも見える表情だったが、しかしどこか裏があるようにも感じる。
一体どういう意図だ? 今の言葉は決して本当だと思って言ってないだろうに。
「……お前、まさか」
そもそもの話、俺が今日ここに来たかった理由はただの下見だった。
これから来るであろうヒロインの誕生日のために、何が売っているかの下見を。
「そうだなー……ボクは、キミがくれる物ならなんでもいいよ?」
やっぱそういうことかよ! こいつ、俺に対して吹っ掛けやがったな……。
お詫びとして自分に渡すプレゼントを選べと、そう言ってるんだろう。
「分かった、分かったよ。
ただその代わり、お前のお気に召さないものを選んでも文句は無しだ」
「文句なんて言うはずがないさ! それじゃあ、ボクは外で待ってるからね」
手を振りながら見送るセンリに踵を返し、俺はいよいよ店内に足を踏み入れた。
……だがこれは彼女の優しさだろう。好きに中の物を見なさいという優しさ。
今後ある他の女性に贈り物を渡す行為を咎めないというのも含めて、な。
(思ったよりちゃんとした店内だな。入ってすぐに小物系があって――)
(奥に進めばアクセサリー類……うおっ、流石に高いなこの辺は)
正直、この場所が説明書に書かれている店かどうかは入るまで分からなかった。
だがこうして売られている物を見れば、ここが該当する店舗だと確定したぜ。
(今月誕生日の穂乃花は、確か髪留めが欲しいって嘆いてたっけ)
この髪留めは近々買うとして、他にも千代が好きそうな熊のぬいぐるみを発見。
恐らく城花先輩や可憐なんかが好みであろうアイテムなんかもあることだろう。
これ以上探索する時間を長引かせるのは不味いので、そろそろアレを買うとするか。
店内に入った時点、いやもっと言うなら初対面の時から似合いそうだったやつをな。
「……ん、これって――
「! やあ、思ってたよりも早かったね」
丁寧に梱包されたプレゼント、を包んだ紙袋を片手に携えて店を後にする。
外へ出たと同時に視界に飛び込んできたのは、数人の女性に囲まれたセンリ。
「お楽しみ中ってやつか」
俺が笑いながらそう呟きながら紙袋を掲げると、センリの目が大きく見開かれた。
「名前教えて」とか「カッコイイ」と言う女性たちに対応し、こちらへ近づく。
軽く頭を撫で、さっさとどこかへ行かせるその手腕が末恐ろしい。
「キミと居る時が一番楽しいよ。
それじゃあ、先にお金を返――「いや要らん」……おや」
ポケットに手を入れたタイミングでそれを遮り、交換をきっぱり断っておく。
言い方は悪いがそこまで高い物でもないし、これはプレゼントだからな。
「……なんだか、それは悪いね。ワガママな女みたいでさ」
「バーカ。誰もそんな事思わないし、俺にとっては――
困ったような表情をするセンリに愛ある暴言を投げかけ、紙袋を手渡す。
中に入ってるかは自分で確かめてくれ。それを身に着けるかどうかも、な。
「お前が喜んでるだけでお釣りが来るよ」
店の前で決め台詞らしき言葉を言い、恥ずかしさが駆け巡る前に顔を背けた。
うっすら聞こえてたのか、店員さんが誰よりも顔を赤くしながら奥の方へ消える。
「――ネックレスなんて、初めて貰ったよ」
俺が虚無とにらめっこをして数十秒が経った頃、センリはか細くそう呟いた。
彼女の方へ顔を向けると、丁寧に取り出された箱の中からプレゼントを眺めている。
「それは意外だな。誰がどう見たって似合うだろうに」
「僕は、ずっと王子様だったから」
「!」
嬉しそうな顔から一転して、悲しみを秘めたような表情に変貌するセンリ。
ヒロインとしての個性である“イケメン王子”には、何か事情があるようだ。
「この町に引っ越したら何か変わると思って、だけど何もかも同じ光景だった」
「……でも、キミに出会ったんだ。ボクにとっての王子様は、キミなんだよ」
渡したネックレスを首に着け、俺の目を見るセンリの顔に悲観的な要素はない。
はっきり言って彼女を変えた俺の行為が何かは不明だが、やることは同じである。
頬を紅潮させたヒロインを前にして、さっき見た“お手本”を試すとしようか。
「わっ! さ、流石に恥ずかしいね……はは」
俺だってこんな外で女性の頭を撫でるのは恥ずかしい。これでも頑張ってる方だ。
しかしまあ照れているセンリが見れてるし、今は周りを気にしなくても良いだろう。
青白く輝いたネックレスを着けた“お姫様”は、普段よりも真摯な笑顔を見せた。
(それにしてもネックレスを選ぶなんて……これはある意味、首輪と同義だよね)
「――ねえ、ところで一つ言っておくことがあるんだ」
「? なんだ」
「キミの周りにいる素敵な女性たち。複数人を愛したとしてもボクは構わない」
「ただ、ボクの事は手元に置いてくれると嬉しいな……王子様!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます