閑話① アナタについての10分トーク

 ――この物語は、第38話~第39話の間で起きたお話。具体的に言うならば、写真部である「東郷可憐」「西園茜璃」「春野美玖」が「宮田景人」の元に向かう道中の出来事である。


――――――――――――――――――――


「…………どうしたんだい? さあほら、早く行こうじゃないか」


 宮田からのメールを見た三人は、目的の場所に向かうために南棟一階の空き教室から出ようとしていた。一足早く教室を出た可憐に続く春野、そして意味深な言葉を呟いたセンリも廊下に足を踏み出す。


「は、はい。

そうですね……早く向かわないと」


 少し気まずい空気が流れても時が止まることはなく、いつの間にやら可憐は10m程先に進んでいた。多少の違和感を覚えていた春野はそれを仕舞い込み、元の笑顔に戻すと彼女の方へ歩みを進めていく。


「センちゃんとなんか話してたの?」

「いえ、話というほどでは……」


は素晴らしい、という話題さ」


 二人横並びで会話をしていたところで、背後から聞こえるのはセンリの言葉。勿論先ほどの交わされた会話は彼(宮田)と関係の無いものだったが、そんなことを知る由もない可憐は真に受けたまま話し始めた。

「えー! 彼って宮っちのコトでしょ?

やっぱりセンちゃんも気になってるんだね~」


「……「も」?」


「あ」

 思わず墓穴を掘ったために急いで口を閉じる可憐だったが、小さく口角を上げるセンリと恥ずかしいモノを見たかのような表情をしている春野を見て誤魔化すのは無駄だと察する。

「……いや、別にダヨ。

確かにカッコいいからあたしは少しだけ気になってるケドさ」


 口をとがらせながら細々と白状する姿は、普段のコミュニケーション能力が高くしゃべりも達者な可憐とは似ても似つかない。とはいえギャップ差のある乙女な部分をこうして二人に見せるのは、それだけ彼女たちを信頼しているという表れだろう。


「正直なのはいいことさ。まあ、ボクの場合は違う意味で気になってるけど……ね」

(彼にこのボクを“飼いならしてほしい”なんて口が裂けても言えないよ)


 表情には絶対に出さないポーカーフェイスで、可憐よりも遥かに差のあるギャップを脳内で吐き出す。センリにとって写真部に入った本来の理由は宮田に近づくためが大半ではあったが、思ったよりも居心地が良い。


 こうして集まるのもまだ片手で数えられるほどの回数でそう思ったのだから、いつの日か写真部の仲間たちに自分の“癖”を伝えられる時が来るかもしれないと心で思った。


「なんかズルいっしょそれ……あ、ちなみにミクミクはどうなの?」


「わえっ?! わ、私ですか?」


 普通よりも遅い歩行速度で歩き、ようやく南と北を繋ぐ渡り廊下にたどり着く。と同時に話を振られた春野は、まさか自分に飛び火するとは思わずに今日一番の声を上げた。

 勿論二人の会話に対して相槌やリアクションは取っていたため、どういった内容でどのような話の流れかは当然理解している。というよりも、理解していたからこそ突然振られたことへの焦りが生まれているのであった。


「えーっと……その、私は――「そこのお三方!」……ひゃっ」


 言葉を詰まらせながらも答えようとした時、北棟へ続く渡り廊下の向こうで一人の影が見えた。と同時に聞こえたその声に聞き覚えがあるのは春野と可憐だけだった。


「たまたま聞こえちゃったんだけど……今、恋バナしてたでしょ!?」


 恋バナというよりは一人に対しての想いを語る会と言った方が正しいのだが、それを訂正する前にこちらに向かって歩いてくる女性の勢いに気圧される写真部の三人。


「んあ、なんか聞いたことある声だと思ったら宮っちの幼馴染さんじゃん」

「東郷可憐ちゃんよね! 体育祭の時に色々語り合ったのを覚えているわ!」

 可憐の肩を掴む者の正体は、宮田景人の幼馴染である海永穂乃花だった。職員室から演劇部の部室へ戻る途中、偶然耳にした“彼”の話題に思わず飛びついてしまった……という事である。


「それに美玖ちゃんと……あなたは最近引っ越してきた転校生の――」


「西園茜璃さ。お近づきの印にこれを渡すよ」


 そう言ってどこかから造花を取り出すと、優しく微笑みながら穂乃花に渡す。黄色く小さな花の名は“ポーチュラカ”と呼び、その花言葉は彼女らしい「いつも元気」が冠されているのだが、当の本人はそれを知らない。

 が、一目見た瞬間に気に入ったその綺麗な花に喜びを見せたので、センリにとっては既に満足いく出来ではあるのだろう。彼女たちの輪から一歩離れて歩きながら会話を流し聞きする体制に入った。


「穂乃花ちゃんも同じ道を?」 


「ああうん、私三階の部室に戻りたくて……ってそうじゃない!」


 センリから貰った造花を丁寧に鞄の中に入れ、偶然向かう階層が同じだった写真部+演劇部の一人は話しながらそのまま階段を一段づつ上がっていく。


「みんな、さっきまで景ちゃんの事を話してたでしょ……」

 最早先ほどの“恋バナ”という看板を突き破り、そんなことよりも自分の幼馴染で思い人である男に対しての日々抱える想いを打ち明けたい気持ちに駆られる穂乃花。恐らく可憐と春野は自分と同じだろうという読みではあったが、それはまさしくビンゴである。


「良かったら私も混ぜて! 景ちゃんについてのアレコレを語り合おっ!」

「幼馴染はさすがに強敵だけど、あたしだって色々知ってるかんね!」

「彼は罪な男だ……いや、だからこそ惹かれる人が多いのかもしれない」




(か、完全に足が止まっちゃってます……!)



 そんなこんなで、第39話の冒頭へ繋がるのであった――。

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