第37話 ギャルと王子とモブ

「――じゃあ、撮っちゃうよん」



「フフ……さあほら、二人とも笑顔でこちらを見るんだ」




「ほ……本当に良いのか?」



「はい。――あなたと、撮りたいんです」



――――――――――――――――――――



日曜日の朝ほど、目覚めた時の心地よさはない。

普段とは違い決まった時間に起きる必要は無いし、外出しなければ着替えも大丈夫。

学生にとってはまさに至高の一日! 幸せとはこういう物ではなかろうか。


(とは言え……寝すぎた)


むくりと起き上がり、後ろに置かれた電子時計を見れば[12:00]と表示されている。

元の世界で自堕落な生活を送っていたときは、午後に起きるのが普通だったな。


それに比べれば今の生活は随分とマシ……というより、以前が酷過ぎたんだろう。


「ん」


一つ大きなノビをして、ふと、勉強机に置かれた“ある物”を手に取った。

それは、小さな写真立て。中に入っている写真が、とても輝いて見える。


「――ははっ」


思わず笑みが零れた理由はとても簡単だ。

これが撮られたのは二週間前。そう、あれは二週間前の土曜日に――



――――――――――――――――――

――――――――――――――

――――――――――



「改めて、今日からよろしくお願いします」



俺・可憐・センリを前にして、深々と一礼したのは部長の春野美玖さん。

その45度に近い角度のお辞儀に彼女の真面目で誠実な性格が伺える。


「ホントに改まってんね~。

なんかこっちが恥ずかしいんだけど!」


頬を搔きながら照れてる可憐を含め、一体なんだねこの可愛い空間は。

この光景を見れただけで誘った甲斐があったと言うものよ。

「フフ……朝から素晴らしいモノを見れているじゃないか」


「お前は朝からそのテンションかよ」


少し離れた位置で眺めていたセンリの言葉を聞き、俺は小声でそう呟く。

何を考えているかは知らないが、なんらかの“裏”があるのは分かっているぞ。

にも書かれていた内容を考えると、俄然そうとしか思えない。


「ボクはいつだってボクさ」

(はあぁん! 二人にバレないように睨みつけるキミが愛おしいっ)


間違いなく裏表があるのに、それを顔に出さないセンリにある種の尊敬を覚える。

この調子ならば演劇部に入っていたとしても直ぐに気に入られていただろう。


「――で、土曜日に集めたって事は要件があんだよね? ミクミク」


「う、うん。実は部室と顧問のことで話があって……」

二人が戯れている間にセンリと睨み合いをしていた俺は途端に正気を取り戻した。

どうせ聞いても分かりそうもない問いよりも、こっちの問題の方が大事である。



「てかさ、そもそも何で部室が無いんだっけ」

「今までは一人だったので、空き教室を使うのも禁止されてたんです」


可憐の言葉に、申し訳なさそうな顔で春野さんは答えた。

まあ、正直聞かなくても分かり切ってた内容だった訳だが……。

改めて本人の口から聞けて良かったと思っておこう。


「この学校にある空き教室って言うと……意外と多いか」


俺たちのクラスが配置されている南棟の校舎にも一つ、二つほど空いてある。

北棟はあまり詳しく知らないが、俺の知ってる限り向こうは部室が多かったっけ。

以前体験入部していた演劇部も北棟にあったし、そういうもんなんだろうな。


(……あれ、そういえば――「そんじゃー空き教室巡りにレッツゴー!」……)


俺の考えを遮るようなタイミングで大声を出す可憐。待て待て早とちりするでない。

いくら何でもこちらが決めることなんて出来るわけがないだろう。

今日集められた理由は、きっと顧問の先生に対する相談がメインだと思われるが。


「フッ、待つんだ東郷可憐さん。ボクたちがそれを簡単に決められるわけがないよ」


お、生まれて初めて俺とセンリの意見が合ったぞ。

完全に心を許すつもりはないが、案外似たり寄ったりなところもあるかもな。

なんて思いながらセンリに同調していると、春野さんが口を開いた。


「生徒会長が言うには、部室として使用可能な教室は2つとのことで……」


「えぇー! ケチンボだなぁ、兄貴のやつ」


この場に居ない可憐のお兄ちゃん兼、生徒会長の東郷――堅悟さんだっけ?

あの人が悪く言われているが、よく考えれば選ぶ余地があるだけ充分なのである。


そもそも学校のルールとして「部活を作る」行為の容認されているわけだが。

それはつまり“部活”として認められる人数・場所が最低限必要という事だ。

何故春野さんが作った写真部が元より1人しかおらず、部室も存在しないのか。


理由は不明だが、急造で集められた俺たちに対して会長は頑張ってくれたんだろう。

まるで過去にもそんなケースがあったかのように、素晴らしい対応をしてくれたぜ。


「……じゃあ、とりあえずその二教室を見に行くか?」


俺がそう呟くと、写真部の面々は頷いて歩みを進めた。

……にしても、だ。今改めて思い出すんだが、俺が知る中で空き教室って言うと――



***



「――――むむ?!」


「わっ! 急に顔上げないでくださいよ明子さーん」


「来る……この演劇部に“彼”が来る気配を感じたぞ、穂乃花!」

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