第34話 最後の一人は [後編]
「………………」
目が覚めてから数分。俺は、何が起きたのか分からなかった。
少し前まで闇野の家に居たのは覚えているが、今の現状は一体……?
(……闇野だ。あいつに、薬でも盛られたか)
あり得ない話ではない。彼女ならば睡眠薬を仕入れていた可能性だってある。
よく考えれば親切にお茶を出したのも、それが理由だったのだろうか。
ここは以前闇野に連れてこられた公園。空には月が昇り、辺りも暗い。
正確な時間を知ろうと、地面から長く伸びている時計塔に視線を動かした。
夜の20時。思っていたより時間が過ぎていないことを知り、胸を撫で下ろす。
まだこれなら妹に心配されることもないだろう。
(とはいえ一時間ぐらい公園で寝てしまったな……にしても)
薄着という事もあり、吹かれゆく冷たい風が俺の身体に直で当たる。
こんな状況になる可能性も考えるべきだったのかもしれないが。
そもそも、こうなってしまった原因を作ったのは俺なのかもしれない。
「押し倒すのはダメだろ俺……何が堕としてやるだよ」
彼女に一杯食わされた事よりも、自分自身の犯した過ちに頭を抱えた。
ため息を吐き、己の後先考えていなかった行動を後悔しながら立ち上がる。
「! ――これ、は」
その時、ズボンのポケットから何かが落ちる。一枚の“紙”だった。
【主人公さんへ】
二つ折りにされた表に書かれていたその文字を見て、これを入れた人物は分かる。
間違いなく闇野であろう。俺をこの名称で呼ぶのは彼女ただ一人だけだからな。
(何が書いてる……?)
自分が横たわっていたベンチに再び座り込み、恐る恐るその紙を開く。
遠くにある街灯の鈍い光が、細い字で書かれたメッセージを照らした。
【眠らせたあなたを公園まで運んだこと、一つ貸しで良いかしら?
・・・なんて冗談は置いておくわ。今日は断ってごめんなさいね。
ただ私はこの世界で“自由”に生きたい。何かに縛られるのはゴメンよ。
少なくとも今は、ね。うふふ・・・
私の家を探し、意地を見せたあなたに良いお知らせがあるわ。
自分のスマホをよく見なさい。これで、さらに生活が豊かになるでしょう。
それじゃあね。 ――モブに恋した、ハーレム主人公さん】
「…………はは」
闇野節満載の、これでもかと詰め込んだ彼女の手紙に笑みがこぼれる。
言い方に語弊が生まれるかもしれないが、気に留めていないようで良かった。
――それにしても、「生活が豊か」とは一体どういうことだろうか?
「スマホをよく見る? 別に変わってる所なんて無い気が――
と、意味深な言葉を頼りにしながら横に置いていたスマホを探る。
外装は特に変わりがない。ならば中身かと考え、ふと電源を押した。
「アップデートされました……?」
俺は、通知欄に書かれた文字をそっくりそのまま口に出す。
どういうことだ。一体何を、アップデートしたんだ?
闇野の事だから、ただ普通の改良なんかではないだろう。
そう思いながらロックを解除し、数個ほど存在するアプリに目を通した。
『電話』『地図』『メール』『日程』……ん?!
「『LOVE』が、無くなってる」
他人が聞けばよくわからない言葉だが、俺の中では驚愕の出来事である。
今まで俺は就寝前に『LOVE』アプリを開き、好感度を確かめていた。
最近だと穂乃花が10の大台に行く直前だったのに……改悪アプデかね。
「って、そんな訳ないよな。一体何が理由だ?」
(それ以外だと機能面で変わりない……どういうことだこれ)
少し前まで眠らされていたとは思えないほどに頭を回転させるが、答えは出ない。
気づけば画面に映し出されていた時間は20時半を過ぎていた。
「そろそろ帰らないと」
鼻を擦って大きなクシャミを止め、おもむろに立ち上がる。
他の事に夢中で忘れていたけど、肌に当たる冷たい風が俺を正気にさせた。
(一旦これを考えるのはやめよう。家に帰れば考察する時間は沢山あるしな)
――そう思いながら帰宅した俺が、心配していた妹に叱られたのは言うまでもない。
――――――――――――――――――――
「部員の件だけど、断られたよ……本当に申し訳ない」
俺は、校舎裏にあるベンチで頭を下げる。
「全然気にしないでください!
それに、可憐ちゃんを連れてきてくださっただけで本当に有難いですし……」
「そーそー! 宮っちはホントよくやってくれた! あたし達が保証する!」
何この
不甲斐ないことこの上ない俺を慰め、さらに励ましの言葉をも与えてくれるとは。
昨日、妹からの愛ある叱咤を受け、アプデの件を考える間もなく寝てしまった俺。
今日も朝から千代に不可避なラッキースケベをやってしまいぶっ飛ばされた俺。
この二人の優しさを受け止められずに爆発してしまいそうだ……割とマジで。
「最後の一人はさ、前も言ったけどあたしかミクミクが誘ってみよーか?」
“次の手”も考えてはいたが、この状況ならば可憐達に任せた方が良いかもしれない。
「ああ、それが――「ちょっと待つんだ!!」……!?」
そう思った直後である。俺たちだけの秘密の場所に、見知らぬ声が入ってきた。
いや――正確には一度だけ聞いたことがある。それも、この三人全員が。
がさごそと茂みを揺らし、出てきた女性。
「このボクが、キミたちの部活に入ろうじゃないか!」
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