第32話 最後の一人は [前編]
「……おい、何やってんだお前」
毎度お決まり、校舎裏にある秘密のベンチで二人っきりの昼食タイム。
“大事な話”は飯を食ってからにしようと思っていたのだが……ふむ。
「え~? 何ってさぁ、あたしが一番盛れる角度を探してんの」
未だ昼食には手を付けずにいる可憐。お前の分も食ってやろうか。
と、今日は意地悪をするつもりは無いんだった。危ない危ない。
自分の携帯を使って自撮りをしている可憐に、一息ついて話を切り出す。
偶然か運命か、彼女に伝えようとしていた“大事な話”と合致してるしな。
「――なあ可憐」
「ん、どったの宮っち。真剣な顔しちゃって」
「キミの写真とか撮っ――「俺と一緒になる気はないか?」……かぇ?」
隣に居る可憐に視線を合わせ、真剣な眼差しで呟いてみる。
目を丸くして口をパクパクと開けているが、もしかして言い過ぎたかね。
ちょっとからかっただけで、彼女の思考はオーバーヒート間近。
「一緒ってのはさ、男女の仲で、ケダモノが、愛を……エッチ。み、みたいな??」
「どもりすぎだ……」
普段と比べて口が回らぬ可憐を見れたことだし正直に言っておこう。
俺は食い終わった昼食を、横に置いてあるゴミ箱に入れてふり返る。
「部活のことだよ。俺も可憐もまだどこにも入ってないだろ?」
「二人で同じところに入部したいと思ってな」
説明書には“?”で隠されていたが、所属してないのは既にリサーチ済み。
つまり彼女は俺と同じく帰宅部という名の一匹狼という訳だ。
俺の言葉を聞いた可憐はがっかりとした表情でため息を吐く。
「なーんだ、そういうことネ……全然良いケド」
「思っていた内容と違ったか?」と返せば、頬を膨らませながら足蹴をされた。
まあ、怒ってるより照れているといった方が正しそうだし置いておこう。
とりあえずこれで写真部3人目の席は確保。春野さんと俺含めてあと1人……か。
(どこに入るかは知んないけど、同じ部活でラッキー♪)
――――――――――――――――――――
「と、言うことで3人目を連れてきました」
「えぇ!? 思ってたより早くてビックリしました……宮田くん」
「? あれ、ミクミクじゃん。昨日ぶり~」
全ての授業が終わり、放課後になった廊下にて合流する“写真部の面々”。
部長の春野さん。副部長の俺。そして入部ほやほやの東郷可憐である。
「えっと……可憐ちゃんが部員、ってことですよね?」
俺は彼女の問いに頷く。――というかなんだミクミクって。俺も呼んでみたいぞ。
相談のメールをされたのは昨日なので、春野さんが驚くのも無理はない。
ただ、可憐は頭も切れるし察しも良いためもう既に色々勘づいている様子だった。
「あたしまだ何の部活か知らないんだけど~」
「そ、そうなの?! えっと……写真部、です」
さて。廃部を免れるためには“あと1人”の部員が必要になってくる。
春野さんと休み時間に話した時は、彼女の知り合いでも……と言っていた。
しかしそれではダメ。なぜならば、この写真部は「ハーレム要素」としても大事な場所だから。
「へー! あたしも写真好きだよ。ほら……この前撮ったノラネコちゃん」
「わぁ、可愛い……。しかも撮り方が上手ですっ!」
(昨日の今日で随分と仲が良いな。可憐のコミュ力恐るべし……ってか)
出来ることならば、最後の1人は俺が知っている女性が適切なのである。
彼女たちと共に部活動に励めるチャンス――そのため、ヒロインを誘いたい。
だがここで問題になってくるのは、一体誰を誘うか。もとい誘えるか、だ。
城花先輩は不可能。彼女は演劇部でバリバリ活躍中だからな、勿論。
「連絡先交換しよ~よ!」
穂乃花もダメだ。演劇部だし、あいつ色んな委員に入ってるから時間も無いだろう。
「いいんですか? 嬉しいですっ……!」
千代は、確か女子バレー部だったか? しかも可憐が居るから断られそうだ。
やはり改めて考えるが、説明書に書かれているヒロインたちは厳しそうである。
――ただし、俺には一人心当たりがあるのだ。因縁深い“あいつ”がな。
向こうからご丁寧に、用があるならば会いに来いと言っていた女性を。
「ところでさー、写真部って部室は無いの?」
と、二人の会話を聞きながら考え事をしていたら、興味深い話題が出てきた。
そういえば俺も聞いたことがなかったな。写真部の部室なんて。
「俺も気になる。いつも会う時は校門の前だからさ」
「いえ……その、言いにくいんですが、部室というものはありません」
何故だか申し訳なさそうに呟く春野さん。あなたは何も悪くはないのに。
……ん? ただそれだと少し疑問が残る。仮にも部活の様相は呈しているはずだが。
活動を行うための場所、例えば空き教室とかは残っていそうなものだが……。
「だから、いつもは放課後になると校舎裏のベンチにカメラを持ち寄ってて――」
「へぇ、そうなんだネ」
ああなるほど。校舎裏のベンチか。
「…………」
あそこは人に迷惑も掛からないし、静かで平穏な場所――
「「ええーーッッ!?」」
俺と可憐は同時に顔を見合わせ叫ぶ。吹奏楽部の音にも劣らないであろう音量で。
「運命」だとかで括りはしない。ただこれに関してはまさか過ぎる事実である。
俺たちが普段から昼食を取っていた場所に、放課後は春野さんが居た……?
「ご、ごめんなさい! やっぱり、部室がないなんて変ですよね……」
いやそうじゃない。可憐が口をぽかんと開けている理由はそこではないのだ。
俺も頭がパンクしそうな程に以外な流れで驚いているが、今は落ち着こう。
大声を出した影響で、教室に残っていた複数人の生徒から驚かれているから。
「えーっと、とりあえず今はそのベンチに向かおう。話はそれからで」
頭を抱えながら指で階段の方を指す。まずは校舎から出るとこから始めようか。
どちらも違った意味で困惑した表情の二人は、歩く俺の後ろをついてきた。
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