第31話 写真部副部長:宮田景人

「いただきますっ!!!」


――今日は俺が飯当番。自分で晩飯を作り、自分で晩飯を食べる。

といっても妹ほど手が込んだものは作れないので、お決まりの炒飯だ。

焦げるギリギリまで炒め、皿に盛りつけ、二人席に着き手を合わせた。


「お、お兄ちゃん何かあった? 勢い凄いんだけど……」


大量の炒飯を一気に口へ運び込み、味わいながらも水で流し込む。

その形相にかなめが引いてるのも分かるが、今は気にしないでおこう。


「ごちそうさまでした!!!」


湿のは、もうおしまいだ。俺も嫌だしな。

かなめが半分ほど食べた所で完食。再び手を合わせ自室に向かう。


春野さんから「廃部の宣告」を伝えられたままに帰宅した俺。

聞いた時は絶望の淵に立たされていたが、今はもう吹っ切れたよ。

初対面の時も、連絡先を交換した時も、大事なのは「考える」ことだ。


今、一番考えるべき大事なことが「写真部を復活させる」なのは間違いない。

正確には廃部を阻止するために、復活という言葉を使っているんだがな。

(ノートと、ペン。それから……お、いい所にハチマキ発見)


階段を駆け上がって自室に戻り、勉強机に筆記用具を放り投げる。

心だけでなく見た目も気合を入れるため、体育祭で配られたハチマキも着用。


さて、それじゃあ考察を広げていこう。まずは廃部になる理由から。

校内で考えた時は部員数の不足と思ったが、冷静になれば他もあり得る。

(万が一、問題行為を起こしたとかが理由だったら俺の介入できる場所はない)


ただしこれに関してはそこまで気にする必要もない、と個人的に思っている。

そもそも写真部に所属している生徒は、俺が知っている限り春野さんただ一人。

実際は他にいるかもしれないし、三年生が卒業してそうなったのかは分からない。

(えーっと、この冊子のP12に……お、あったあった)

「愛恋高校では、二年生になると自分で新しい部活を作れます」


――が、例えば春野さんが写真部を作ったと仮定するとしよう。

この世界に来て最初に見つけた例の説明書には、そう書かれていた。

つまり廃部の理由は部員数の不足であることはほぼ間違いない。


「<ただし、部員数が足りない場合は三か月で無くなるので注意>……か」


ふむ。だとすると時系列が合うな。四月に立ち上げ→七月で終了の流れだ。

主人公である俺以外にもそれが適用されるのは、ゲームの設定ではなく愛恋高校のルールだからだろうか。

その辺の諸々は置いといて、今大事なのは「何人の部員が必要になるのか」である。

(ただ何故かこの説明書に書いてない……嫌なとこで不親切だな)


俺の予想では、部活を成立させる人数は部長を含めて4人だと思っている。

理由は単純明快。俺が実際に高校生だった時の決まりが「それ」だったから。

この世界でそのルールが適応されているかは分からない。が、今はそう仮定しよう。


「…………うーむ」

――仕方ないと言えば仕方ないのだが、この会議には確定した情報が少なすぎる。

無論、明日になれば教師や春野さんに聞くつもりだが……中々に光が見えない。



その時、閉じていた扉が叩かれる。自室の向こうに誰が居るかは、分かっているが。


「……お兄ちゃん。大丈夫?」


ゆっくりと開かれた扉に立っていたのは妹。とても、心配そうな顔をしていた。

彼女の右手にはラップで包まれた白黒の物体……詳しく言えば「おにぎり」である。

それはどうした? と聞けば、俺のために作ってくれた夜食だというじゃないか。

「ありがとうかなめ。有難くいただくよ」



「うん……はい、どうぞ」

何か言いずらそうな表情のままで、俺の勉強机の上にお手製おにぎりが置かれる。

今はそこまでお腹は空いていないが、後になったら食べるとしよう。


だが、その前に……。

「じゃあ、私はこれで――「ちょっと待て妹よ」……きゃっ!」


俺は背を向けて部屋を後にしようとするかなめの肩を掴む。こらこら逃げるな。

気が利けない俺だが、流石にお前のその表情を察せないほど馬鹿ではないぞ。


「な、お、お兄ちゃん! どうしたの急にっ」

「それはこっちの台詞だ。顔が元気なさそうだぞ?」


掴まれていた手から抜け出し、気持ちが切り替わったのかいつものかなめに戻る。

――まあ、正直なところ理由は分かっていた。妹は、心配性だからな。


「……お兄ちゃんが、また前みたいに倒れるかもと思って」


小さく呟きながら顔を伏せる仕草は俺に大ダメージ。可愛すぎるだろう。

確かに以前気を失った時もかなめはベッドに入ってきたりしてたのを覚えている。

今回も俺が雰囲気的に何かあったと感じ、心配したんだな。よしよし。

「ちょっ! 頭、撫でるなバカ!」


尊さを感じたことで、微笑みながらかなめの頭を撫でる。が、即拒否。

嬉しいような悲しいような、普段の妹に戻ってしまったかなこれは。


「俺はもう大丈夫だよ。無理はしないって約束したもんな」


「! ……本当だからね! 嘘ついたら、100回殴るから」


そんなヤンキー漫画みたいな取り決めある? ……まあいいや。

俺の言葉を聞いて満足したのか、かなめはそのまま部屋を去った。


良い気分転換が出来たな。夜食もあるし可愛い成分も補給できたぜ。





――と、先ほどまでの戯れを回想しながら再び机に突っ伏す俺。

春野さんから、“たった今貰ったメール”を見てようやく作戦は完成した。


『いきなりのメール失礼します。

今日宮田くんに酷いことを言ってしまって…本当にごめんなさい。

あのときはもう無くなるって言ったけど、でも、私の気持ちは違います。

本当は、写真部を続けたいんです。無理な願いかもしれませんが…


もし宮田くんが入ってくれるなら、あと二人で廃部を免れるかもしれません。』



「……そういうことなら、任せてくれよ。春野さん」

俺は春野さんに返信する。長文になり過ぎず、固過ぎずを心がけて。

更にこの文面を見て、先ほど考えていた“部員数4人説”が合っている事を確信した。


部長:春野さん 副部長:できれば俺……となれば、残った二人を集めればいい。

幸いにも、自分の中では残りの二人を誰にするかはある程度決まっていた。

もちろん断られる可能性もあるが、そうなった時の“次の手”も考え済み。


「写真部復活作戦、明日からスタートだ」




廃部になるまで残り27日。でも、それに甘えて先延ばす真似はもうしない。

一週間だ。一週間で、写真部の部員を全員集めきってやる……!

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