第27話 体育祭にて ④
【恋愛ゲーの世界でハーレム+モブキャラ攻略に励む宮田景人。
借り物競争も無事に終わり、昼食の場でヒロインが一同集結。
そんな中、城花明子が呟いた一言に春野美玖の名前が……?】
『三年生対抗リレー、勝者はA組でしたーっ!』
今日一番の、特段大きな歓声が沸く。その理由は単純明快だった。
アンカー直前まで最下位だった三年A組が、逆転1位でゴールしたからだ。
そのアンカーが誰かは、まあ、言わずもがな彼女である。
「いやぁ。無我夢中で走ったけど、皆の声援のお陰だよ!」
ヒーローインタビューのように、周りから囲まれながら話を受ける城花先輩。
大方、新聞部の奴らがネタ探しのために根掘り葉掘り聞いているんだろう。
黄色い声援飛び交う最中、次はいよいよ俺の出番……というか二年生の番。
第一レーンから第四レーンまで、A組~D組を分ける白線にそれぞれ位置に着く。
計5人いる走者で4人目が俺。言い方は悪いがアンカーまでのつなぎである。
最初はこの順番に少し違和感を覚えたが、今こうして城花先輩の姿を見て納得だ。
「頑張ってねお兄ちゃん!」
「ああ、ありがとう。かなめもこの後頑張れよ」
俺はあくまで1位を取る役割ではなく、良い流れのままアンカーにバトンを渡す。
主人公がそんな立場で良いのかと思えば、この二年B組の最終走者を見て分かる。
海永穂乃花。俺とは反対側の位置で待機している彼女の姿はやる気に満ちていた。
よく考えれば体育委員のくせして借り物競争だけしか出ないなんてわけもなく。
「それじゃあ、私応援してるから」
観客席の方へ戻っていくかなめを見送りながら、種目が始まる時を、ただ待つ。
つまり俺はアンカーである穂乃花にバトンを渡せばいい。
欲を言うのなら目立った活躍をしたいところだがな。城花先輩みたいに。
「…………」
――それに、彼女が言ったあの言葉。昼食時に教えてくれた春野さんが居ない理由。
『後輩ちゃんの妹がね、風邪を引いたらしいんだ』
『それで、残念ながらお休みって……少し前に連絡が入ったよ』
全く。本当に俺は馬鹿な奴だよ。そんな大事な事すら忘れていたなんて。
櫻野美加と似た存在である彼女にも、妹が存在するということを。
今思い返してみれば、春野さんと
***
【さっきまで一年生の教室に行ってました……妹が、お弁当を忘れていたので】
***
この体育祭に春野さんはいないけど、彼女に良い報告をしてあげたい。
出られなかった悲しみを無くすほどの笑顔を咲かしてやりたいのだ俺は。
……っと、年甲斐もなくクサい台詞を言ってたらついにリレーがスタート。
走者が半周に差し掛かり、2人目が受け取った所で俺も立ち位置に着く。
「うおーっ! 全員頑張ってくれーっっ!!」
三年生のリレーで城花先輩と接戦だった生徒会長こと可憐のお兄さん。
俺とは一番離れた場所にいるのに声が大きい。メガホン使わずこれか。
彼の応援で回りの熱気も高まり、まるで特別な大会に参加しているようだ。
が、そんな熱狂する生徒とは裏腹にリレー自体は中々厳しい条件である。
A.C.D組がほぼ横並びの状況で3人目にバトンを渡し勢いも良い。
そんな中俺と穂乃花がいるB組がかなり遅れていることで現在最下位。
3人目の走者も頑張ってくれているが、それでもビリから抜け出せなそうだ。
……もう少しで、俺の番。右と左で別クラスの走者が走り去っていく。
(人前で全力疾走をする経験ってのは、一体いつ以来だろうか?)
(本当の高校生だったときは、確か、斜に構えてこういう種目は出なかったし)
俺は、バトンを受け取って走った。
(さすがに全員抜けるとは思ってない。でも、意地ぐらいは見せたいよな)
不可能に近いことも分かってる。でも、出来うる限りは先へ進もう。
このリレーすら目標が達成できなければ、俺の夢はそのまた向こうだから。
モブキャラと付き合うという不可能を実現するために、負けられないのだ。
前に。前に。前に。この日のためにある程度運動はしていたがしかし。
自分の人生でもトップクラスに全力疾走を続け、アンカーまで推定50m。
「あんた、負けたら承知しないんだからねっ」
「ラストスパート頑張れ、後輩くん!」
「他クラスを応援ってホントはダメだけどさぁ……頑張ってね宮っち」
え、なにこれ。何故か分らんがヒロインたちの声援が聞こえてくる。
観客席からは結構離れているのに耳に入ってくる理由は不明。
この不思議な現象は後々考えるとして、応援されたからには……な。
『おーっと! B組の宮田君、ここで一気に追い上げてきました!』
「…………っ」
主人公として、一人の男としてカッコいいところは見せないと。
1人、2人、なんとか抜く事には成功したが、まだ満足は出来ない。
春野さんに教えるんだ。貴女の分まで走り切ったことを。
あともう少し。届け、届いてく――【ケイちゃんなら大丈夫】……れ?
【いつも、私に見せてくれたもんね】
今の、声は。
「ッ……穂乃花、あとは頼むぞ!」
最後の踏ん張りでトップに立ち、目の前にいるアンカーにバトンを渡す。
悪いがこれ以上は走れない。これが、俺の精一杯なのである。
「任せて! 絶対に逃げ切るから!」
頼もしい事この上ない彼女の笑顔を見届けて、俺は白線の外に出た。
肩で息をしながら、すでに走り終わった仲間たちの元へ歩いていく。
「げほっ…………はぁ」
さっき聞こえた声は、誰のものだったんだ? 俺にはそれが、分からない。
呼び方は櫻野か穂乃花。しかし、その声色に聞き覚えはなかった。
でもまあ、今はそれよりも、こっちの方が重要であることは間違いないな。
「――穂乃花! 頑張れよ!」
***
「……いよいよ結果発表ね」
「ああ、そうだな千代」
朝礼台を前にしながら、全校生徒が立ち並ぶ。
開幕を宣言したときと同じように、その台の上には生徒会長が立っていた。
「みんなのお陰で、本当に素晴らしい体育祭になりました」
「特に、最後のリレーは3つとも過去最高と言ってもいいだろう!」
相変わらずとても声が大きい。というか、初対面と比べて性格が違い過ぎる。
まあ最初は可憐に指示されて不良のフリをしていたので当然と言えば当然だが。
それにしても、ここまでの熱血漢だとは。演劇部でもいけそうじゃないかね?
「ということで、体育祭を締めくくる順位の発表を行います!」
さあ、来たか。
「まずは三年生。総合1位だったのは…………A組の皆!」
納得過ぎて言う事がない。主に城花先輩の無双があったからだとは思う。
勿論他の諸先輩方も凄かったのだが、流石にアレ相手は勝てない。
少し離れた所で喜びの声を上げる者たちと、嘆く者たちの声がする。
まあ、そうだよな。三年生にとっては、これが最後の体育祭だもんな。
「…………」
「うぅ……やっぱり、私が足引っ張ったせいで1位は無理かな……」
背後から半泣き状態の穂乃花が、先輩方のように嘆いてきた。
まだ言ってるのかお前。誰も気にしてなんかいないというのに。
「大丈夫よ海永さん。貴女を責める人がいたら、わたしが注意するわ」
分かりやすいぐらい落ち込んでいる穂乃花を慰める千代。
流石の学級委員だし、中々に珍しいものを見れて眼福である。
というか、お前は体育委員なのにここに居て大丈夫なのか。
「では続いて。二年生で総合1位になったクラスは…………」
――結果から言うと、クラス対抗リレーで勝つことは出来なかった。
最後の最後で穂乃花がまさかの転倒。ここに来てのドジっ子属性発動だった。
それでも序盤中盤で稼いでいた貯金が活き、抜かれたのは1人のみで結果は2位。
ただし、口にも出した通りこの転倒には誰も怒ってなんかいない。
怪我もなく、そもそも穂乃花は借り物競争でも大活躍の成果を上げている。
つまりこの結果がどうなろうとも誰も悪くないし、悔いも残ってはいないだろう。
すべてを知る生徒会長様の口から語られるのを、後は待つのみ。
「本当に僅差だったが……総合1位はC組だ! おめでとう!」
!
「……届かなかったわね」
駄目だった、か。しかし隣で聞こえる千代の声は、決して暗くない。
後ろにいる穂乃花も真摯に受け止めたようで、いつもの調子に戻っている。
向こうで喜ぶC組の面々の中には、ヒロインである東郷可憐も勿論いた。
周りからは、また来年頑張ろう。なんて言葉が聞こえてくる。
千代も、穂乃花も、それに賛同しているが。俺はダメなんだ。
俺のタイムリミットは来年の4月1日。……つまり、これが最後の体育祭。
だからこそ勝ちたかったのだが、そう上手くいかないのも人生だな。
「そして最後に一年生。総合1位は…………A組です! おめでとう!」
お、かなめのクラスが1位になったか。あいつの喜ぶ顔が目に浮かぶよ。
家に帰ったら盛大に祝ってやらないとだな。ケーキとか買って。
「そしてここで!」
ん?
「惜しくも勝てなかったが、その戦いぶりで盛り上げてくれた者に!」
「生徒会長である私、
なんだそれ聞いてないぞ。俺以外の周りも知らなかったのか、皆ざわついている。
一体誰が選ばれるだろうか。予想だとやはり穂乃花――「宮田景人くん!」……へ?
「最後のクラス対抗リレーで素晴らしい走りを見せたキミ、こちらに来てくれ!」
い、いやいやちょっと待て。俺なの? もっと活躍した人だっていただろ!?
そう口に出そうとする前に穂乃花や千代によって朝礼台に行けと急かされる。
クソ、先ほどまで子犬のように見えた幼馴染が一気に顔色を変えやがった。
しかも違う方向からは他3人の煽りとも取れる声援が聞こえてきたぞ。
特にかなめや穂乃花は俺が人前に出るのは好きじゃないと知ってるはずなのに……。
当然拒否なんて出来るわけもなく、生徒達から浴びせられる拍手の雨。
今日一番恥ずかしい体験をしつつ、台上に上がった俺は生徒会長から褒められた。
「キミには特別賞として、このミニトロフィーを贈呈しようと思う!」
こういう特別な物、俺が実際に高校生だった時に貰いたかったな……本当に。
実年齢が二十歳を超えている今渡されても、残念ながら笑顔を作る事しかできねえ。
あ、でもこれをスマホで撮って春野さんに送るのはいい考えかもしれない。
「ありがとうございます。……?」
「?」
トロフィーを受け取った瞬間感じた違和感。今のは、気のせいだろうか。
しかし、それを考える暇もなく戻るよう言われた俺は逃げるように定位置へ。
「やるじゃない、あんた」
「お、おう」
右手に携えたトロフィーを、恥ずかしいから隠しつつ生徒会長の言葉を聞く。
最後は校長先生が台上に上がり、体育祭を締める挨拶が始まろうとしていた。
……それはつまり、6月の最後を意味している。
俺がこの世界に来て二か月。本当に楽しく、本当に大変だった。
残りのタイムリミットも迫っているが、俺の中で確信めいた物が一つ。
春野美玖さんと付き合う事は決して不可能なんかではないということ。
「以上で、第14回愛恋高校体育祭を終わりたいと思います」
こうして俺の体育祭は幕を閉じた。
そして、6月が終わりを迎える。
――そう、思っていた。
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