第25話 体育祭にて ②

前回24話のあらすじ

【恋愛ゲーの世界でハーレム+モブキャラ攻略に励む宮田景人。

6月最終日となり体育祭が始まったが、何故か意中の春野美玖がいない。

理由は不明のままに開幕し、最初に行われる種目は……】



「校長が話してるときに手を振るな」

決して痛くならないような力加減で、はしゃいでいた穂乃花の頬をつまむ。

俺はともかく、穂乃花は体育委員なんだから怒られないようにしろ。

「ご、ごめんなひゃい……」

口ではそう言いながらも反省してるのか分からないが、まあ良しとする。


……それにしても、癖になる柔らかさだ。もう少しだけこの頬を楽しみたい。

と、周りから変な目で見られていることに気づくまで俺は穂乃花と戯れた。

その後、学年・クラス別に分かれ、自分の椅子に座ると前を向きなおす。

最初の種目は学年対抗の二人三脚競争。うむ、実にゲームの体育祭らしいな。


(二年生は誰が代表で出るんだったか?)

事前に配られていた体育祭用紙をパラりと捲る。

俺は最後の学年リレーに選ばれたので、残念ながら他の種目に出る予定はない。

もっとも、誰かと特定の組み合わせにならず全員にアピール出来るので得は得だ。


(えー何々。二年B組は、山村千代と――)



「!」

この二人三脚は本来男女で行われるものと説明がなされていた。

そのため他のクラスは規定通り男女で走るのが本来の姿である。

が、ヒロインである千代が出場するこのクラスでは女性同士で出ると察していた。

(いやしかし……なるほど、こう来るか)


[二年B組-山村千代・春野美玖]

[二年C組-東郷可憐・西山和子]


俺が握りしめた用紙に書かれていたのは、何を隠そう春野さんの名前。

ということはつまり、今ここに彼女が存在しない理由はこれだったのか?

遠くの方で声が聞こえる。「山村さんのペア、代役を募集」との声が。


「…………」

ああ勿論行くさ。俺が、代役として千代と二人三脚をしよう。

これは、他のみんなからすれば何の変哲もないちょっとした出来事。

不運にもペアが欠場しているので、知り合いの男子生徒が変わりに出るだけ。

ただ、これが彼女との仲を深めるため無理矢理捻じ曲げられた結果なら話は変わる。


春野さんは、この展開が起きるために「居ない」とでも言うのか。

俺の立場が原因で、体育祭を楽しみにしていた彼女は「居ない」のか。

机上の空論にはなるが、もしも俺が存在し――「何考え込んでるの!」……な。


「ち、千代っ!?」

俺が千代の方へと向かう間もなく、いつの間にか千代が前に立っていた。

腕を組んで睨みつけるその顔は、決して怒ってるわけじゃない事は分かる。

どうやら俺は顔に出やすいようで。バカみたいに深刻な表情をしていたようだ。


「あんたが何を気にしてるかは知らないけど、これは学級委員命令よ」

「春野さんの代わりとして、私とペアで種目に出なさい!」


胸を張りながらこちらを見る。最初からそのつもり、とは言わないでおこう。

仮に先ほどの仮説が正しかったとしても、今は考えるべきではない。

体育祭に支障を出さないことが、現時点で一番大事な目標だ。



「……ああ、任せろ千代。俺とお前の共同作業で1位を取るぞ!」

「その言い方は恥ずかしいからやめなさいっ」



***


俺の右足と千代の左足が、固い布で結ばれる。

細く美しいおみ足が傷ついてしまいそうで、それだけが心配だった。

隣を見ればどこか慌てた様子の千代。おいおい緊張してるのか?

「大丈夫だ、足引っ張るつもりはないぞ」


「え? う、うん……って別に不安なんか感じてないわよっ」

(あんたと密着してるから緊張してるのよ、バカ)


俺たちを含めて4組が走る第三レース。さてどうなるか。

前提として勝てるかどうかではなく何が起きるかを考えよう。

二人三脚でありがちな、うっかり転んで抱き着かれる展開?

それとも両方ドキドキし過ぎて最下位になってしまう展開?


「――言っておくけど、1位以外を取る気はないわ」


先ほどまで赤らめていた顔は、元の冷静な表情へと戻っていた。

そうだよな。お前の性格的に、今は「恋」より「勝ち」だよな。

負けず嫌い仲間である可憐のクラスには負けてられないと。


「なーんか、凄い気迫だネ。お二人さん」


気づけば左隣には可憐たちのペア。なんだお前もそういう気分か。

千代と可憐の幼い頃から続く因縁の対決……に、挟まれる俺。

結構前にもあったなこれ。流石に二度も気を失うつもりはないけど。


「先月のテストは私に負けて、今回も同じ結末かしら」

「たった一問差じゃん! しかも今回はあたしが勝つし」


俺を挟んで言い合うのはやめてくれないか。一応足繋がってるんで。

当然と言えば当然だが、可憐の相方である西山さんとやらも困惑している。

お互い大変だな……まあ、俺の立ち位置は本来春野さんだったが。



「位置について! ――よーい、」


!おっと。二人の口論を聞いていたら、いつの間にか始まりそうだ。

この二人三脚は「俺と千代の恋愛」ではなく「千代と可憐の戦い」が主題。

となると俺がやる役割と言えば、どちらかに優劣を付けるんじゃなく――


「さぁいくわよ! しっかり私の動きに合わせなさい!」


「絶対負けないし! だよね、和子っち!」



***



「ふう」

よーいドンと銃声が鳴り、4組が一斉に走り出したのはもう十分ほど前になる。

それにしても、衣服越しとはいえ密着してた状況、実は俺の方が恥ずかしかったな。

ただまあ千代は気にしていなかったし、俺もなんとか無心で走ったわけだが。


自分の席へと舞い戻り、次の種目が行われるまでの待ち時間に水分補給タイム。

そろそろ元気になったらどうだ? 学級委員長らしくないじゃないか。

「……どうした千代。1位だったのに悔しそうな顔をして」


「1位だったのは勿論嬉しいわ。だけど――」



「可憐と同率だったのが納得いかないのよ!」

二人三脚の結果。中々に運が絡む作戦だったが、無事に成功して良かったぜ。

俺にとっては両名とも大事なヒロインなんで、なにかと差はつけたくない。

とするならば、B組千代C組可憐が取るべき順位は同率が一番最適であろう。


「それだけお前と可憐は似てるってことじゃないか?」

正直、女子同士で組んでいる可憐たちのペアが1位を取れるとは思わなかった。

俺自身はそこまで何もしていないのが本音だが、口に出した通り二人のお陰だ。

西山さんと俺はそれに合わせただけ。やはり、この二人は似ているんだろうな。


「~っ! ……はあ。まあいいわ。次に切り替えていきましょ」


何故だか負けた雰囲気を醸し出しているが、結果は1位なので現在首位である。

可憐との件も終えたことだし、このまま残りの種目も勝ちたいところだな。


と、次は何の種目をやるんだったか確認のために用紙に視線を合わせた刹那。


「ドーーン!」


「はっ!?」

いきなり背中から奇襲。二人三脚の銃声かと思うレベルで驚いた。

なんて冗談は置いておきながら、こんな事をする奴は一人しかいないと後ろを向く。

俺の目線の先には穂乃花の姿。踵を伸ばす準備運動中かね。


「次の種目は借り物競争! 絶対1位になるから任せてね」

「お、おう」


そのやる気が空回りしないよう気を付けて、そういう意味で応援しておくよ。

転生して二か月弱だが、以外にもドジな奴ってことはもう知ってるんでな。


俺に気合を見せつけた穂乃花は、運動場の中央へと走っていく。

再び用紙に目を動かすと、そこには中々面白いことが書かれていた。


借り物競争[借りてくる物は、として含まれます]

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