第20話 演技力×
「ずっとキミが好きだった……俺と、付き合ってくれ!」
目の前に映るのは、煌びやかな衣装を着用した
周りから感じる視線が俺の羞恥心を最大まで高めてくる、そんな今の状況。
一体何があったのか? なぜ俺は先輩に人生初の告白をしているのか?
その理由は、今から二時間ほど前に遡る。
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(……ようやく落ち着けたな)
この学校で自分の居場所と言えば、校舎の陰に隠れたこのベンチだった。
生徒たちの喧騒は遠く、陽にも当たらない好条件の立地。
特に今日は早朝から色々とあったため、一息つく事も出来なかったのである。
(うめぇ)
それに加え、普段は共に昼食を食べている可憐も野暮用で来られないとのこと。
思えばこの世界に来てから校内で一人になる時は殆どなかったことを思い出す。
現実と変わらない味のカレーパンを食しながら、何の気なしにスマホを見た。
「…………ん?」
自分の視界に入ってきたのは赤く光っているメールの通知欄。
一体誰だと押してみれば、珍しくもそれは城花先輩だった。
メールでのやり取りは少なくないし、正直どこか緊張してしまう。
そもそもどういう理由での連絡なのかを頭の中で考え、その後メールの本文を見た。
『やあ! 二週間ほど前に話していた体験入部の件についてだけど……
キミがもしよければ、今日の放課後なんてどうだい?
西棟二階に行けば部室があるから、いつでも来てほしいな!』
「……なるほど、なるほど」
一見すれば、誰もが羨む美人先輩からのお誘いメール。まさか断る気もない。
……の、だがしかし。何故だろうか、この文面からは謎の威圧感を感じてしまう。
何かとんでもなく大変な目に合いそうな気がして、俺の危険センサーはビンビンだ。
「ま、行くけどな」
とはいえ俺の選択肢は一つ。ここまで先延ばししていた予定は解消しなければ。
むしろここまで待たせて申し訳ございません。という気持ちで赴くとしようか!
***
と、少しの期待と恐怖と緊張を混ぜ合わせながら部室へと向かった俺。
若干太陽が落ちかかっているこの時間は、放課後だけの特権である。
年甲斐もなく扉の前で深呼吸をし、他の部員に舐められないよう思い切り開けた。
「体験入部の宮田 景人です! よろしくお願いします!」
「………………」
突然の来訪により静まり返る部室内、並びに発声練習をしていた様子の部員たち。
やめてくれ俺をそんな目で見つめるんじゃない。帰りたくなるだろうが。
こちらに対して無視しながら不愛想な態度を取っている演劇部の皆様方。
(おいおい何で城花先輩が居ないんだ……明らかに場違いだろうこれ)
「来てくれたんだね後輩くん! みんなももう演技やめていいよ!」
「!」
教室内の空気に押された俺が一歩後ろに足を引いた時、背後から声が聞こえた。
そこ抜けた明るい声が鳴り響くと、冷たい目をしていた部員の顔色も変わる。
――というよりも、先輩が言うように彼ら彼女らは演技をしていたんだろう。
数秒前まで汚物を見るかのような視線を向けていた姿は既にどこかへ消えていた。
「みんなに紹介するね。この子が前々から言っていた2年生の宮田くんさ」
「よろしくね~」
「宮田君、さっき良い挨拶してたなぁ!」
「大きい声はそれだけで武器になるからね!」
部室の中心へと案内された俺は、十人ほどに囲まれながらの挨拶合戦に。
以外にも三年生は城花先輩のみで、俺と同じ二年生が大多数を占めている様子。
ほとんどが気さくに話しかけてくれる事もあり、以外にも居心地が良い。
「……」
ただ一つ気になることがあるとすれば、城花先輩の陰に隠れている一人の女子生徒。
小柄な体格で短く切り揃えた短髪姿の彼女は、自己紹介をせずに無言を貫き通す。
どこか不気味な、それでいて不思議な魅力を醸し出す姿に思わず見惚れそうになる。
「あ、えーっと。体験入部の宮田です。お願いします」
俺は後ろに隠れた彼女の方を向き、今日何度目かの挨拶をして手を差し出す。
無表情のまま俺の右手を見つめ続ける状況に、周りのみんなも気まずそうである。
無言の時間が少し続いて、まるで息をするかのように自然と俺の手を握り返す彼女。
この子は一体なんなんだ? 触れることが出来たから、モブではない……のか。
いやしかし説明書に彼女の姿は描かれてなかったし、名前すら未だ分からない。
白く冷たい手に意識を集中させていると、小さくも透き通る声が俺の耳に通る。
「――――あなた、本当に高校生?」
ハイライトの入っていない冷酷な瞳を前にして、隠し事は出来なさそうだと思った。
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