第19話 「あえて」は彼女のみぞ知る。
「おっは~。下駄箱で会うの初めてだよね?」
朝にも関わらず、普段と変わらないテンションで接してくる
だが、しかし。頭は回ってないんだろうか。早く気付いてほしい本当に。
「ちょっと、なんでこっち見てくれないの~? そっちの女のコもさ」
決して彼女の方へ顔を向けてはならない。
俺と穂乃花は何を言うでもなく靴を履き替える。今の俺たちは運命共同体だ。
「は、初めまして……」
視界の端にチラチラと映る彼女の姿に対して、邪念を感じずにいられない。
これは神様が引き起こした一つの試練か、はたまた一つの気まぐれか。
普段から丈の短いスカートを履いてるため、見えてしまっているのだ。
鞄に引っかかって捲り上げられた、純白の下着が。
(これは恐らくラッキースケベに該当……するんだよな)
何という無理矢理な繋ぎ合わせだが、目の当たりにしてるのもまた事実。
一言「パンチラしてるよ」と言う事が出来ればそれで済む話ではあるのだが。
実際問題、多少仲の良いだけの女子生徒に対してその言葉は失礼ではなかろうか。
同性である穂乃花が教えれば最善だが、それも初対面同士という壁が邪魔をする。
もし俺が初めて会った人に「パンチラしてるよ」って言われたら恥ずかしくて死ぬ。
だがこのままスルーした場合、他の生徒にそれを見られるのは一番嫌な展開だ。
つまり今の状況は
いつにも増して話しかけてくるうっかり可憐
それを気にしていつもの調子が出ない穂乃花
そんな二人から板挟みにあってる俺である。
「なんか今日冷たいよーキミぃ」
「朝だからまだ眠たくてな」
「どうしよ景ちゃん……教えてあげた方がいいかな?」
「待ってくれ今どうするか考えてる……」
間に俺を挟んで伝言ゲーム。両手に華より両手に爆弾だな。
と、いうのも。俺が危惧しているのは何も下着についてではないのだ。
これから先俺に着いて回る一つの問題に、「取り合い」が存在する。
二週間ほど前に千代と穂乃花から同日に誘われた事は記憶に新しい。
あの時は午前午後で分けたことで助かったが、これからはそうもいかん。
俺はハーレムを作りたいけれど、彼女たちも仲良くあってほしいのだ。
どちらかを断りどちらかを贔屓することなんて、俺はしないしやりたくない。
格差を作ってそのまま放置すれば、ゲーム的に言えば地雷が出来るわけだ。
例えば。もしもヒロイン同士の仲が悪く、俺に対して独占欲が強くなったら――
『景ちゃんは私のモノだよ。他の奴らには渡さないからね』
『はあ? アイツは私のだから、バカなアンタたちには分からないかしら』
『いやアタシのだし! 君らいい加減うざいんだけど?』
……こんな感じでギスギスした生活、なにより俺の身が持たない。
千代-可憐や穂乃花-城花先輩のようにゲーム内で設定されてる仲。
それだけではなく、俺が介入することで初めて生まれる関係性。
自分だけが得をするんじゃ、主人公としてやっていけないのでな。
ここで穂乃花がパンチラを伝えるくらいなら、俺が泥を被ろうじゃないか。
気まずくなって彼女たちの仲をマイナスからのスタートにはさせないぞ。
「あー、今日は良い天気だなぁ」
言葉はなんでもいい。大事なのは、周りの気をこちらに向けること。
俺はおもむろにベルトの留め具を外し、少しづつズラしていく。
意図的ではなく、偶然緩くなっていたから外れたように見せるのがポイントだな。
こうすることで、運命共同体である穂乃花には伝わったはず。
「……あ、景ちゃんズボン下がってるよ! まったく、仕方がないなー」
随分と棒読みだが乗ってくれた穂乃花。本当に演劇部なのかは疑問が残る。
だがしかし、彼女の好プレーのお陰で戦況は変わったぞ。
周りにいた他生徒からの視線が俺に注がれ、可憐の純白純潔は一旦守られた。
あとは可憐が自分で気づいて直せば完璧なのだが、上手くいけるかね。
「アハハ! 朝だからってだらけ過ぎっしょ~」
貴女のためにやったんですけど…………って、あれ。
俺を見て笑う可憐は、いつの間にやらパンチラをしていない。
恐らく鞄を動かしたことで自然に直っていた、のだろうか?
(す、スカート元に戻ってるね)
(ああ。俺たちの行動は無意味だったか)
俺と穂乃花は小さく密談を行う。なんという無駄な空回り。
結果的に言えば、周りから俺がだらしない奴と思われただけのイベント。
まあこういう時もある。と、心の中でため息をついて校舎へと入っていった。
――いや。可憐の下着を見れた時点でお釣りが来る、か。
「……へへっ。良い反応してくれたなー、景人クン」
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