第16話 いつか巡るその結果
「……ふう」
終わりを告げるタイマーと共に、俺は一息ついてペンを置いた。
数日前に千代と勉強したことに即発され、ここ最近は寝る前の予習は欠かせない。
いよいよ明日は数学の小テスト。特に俺は気にしないが、大事なのは彼女たちの点数だ。
高いのか低いのか、その点数の差によって何らかの情報を得られるだろう。
「さ、寝るか」
未だ鳴り響くアラーム音を出すスマホを止め、椅子から立ち上がる。
数年前では思ったこともない感覚。ああ、テストが楽しみだな。
少しばかり気になる事柄についても、はっきりと分かるはずだろう。
【数日後】
宮田 景人 85点
「ふむ」
なかなかに悪くない点数。千代と二人でやった勉強の成果が出たと言えるだろう。
とはいえ実年齢が二十歳を超えてるのにこの点数は、お世辞にも満足できないな。
恋愛面ではそこまで関係ないものの、次のテストでは満点を目指したい所である。
「景ちゃんどうだった? 私はギリギリ赤点回避だったよ〜」
「ん、まあまあって感じだ」
俺の前に座る穂乃花は安心したような顔で肩を撫で下ろした。
答案用紙を見れば丁度50点。数学が苦手と前言ってたが、充分凄いじゃないか。
今度は穂乃花も誘って勉強をすれば、恐らくもっと点は上がるだろう。
「は、はちじゅうご!? ここに天才がいる……」
大袈裟なリアクションを取ってくれて嬉しいが、多分俺の隣の方が点数高いと思うぞ。
そう考えながら何の気なしに横を見れば、偶然千代と目が合った。
「千代は何点だったんだ?」
らしくないと言えば申し訳ないけれど、優しい顔でこちらに微笑み返してくる。
まあ、少なくとも俺や穂乃花よりは点数は高そうだな。この感じだと。
「わたしはミスがあって満点が取れなかったわ」
胸を張りながら見せてきた答案用紙には、でかでかと90点の文字が。
穂乃花はまるで化け物を見たかのような反応で千代の点数を眺めていた。
恐らくクラスじゃトップだろう。俺も解けなかった大問4を正解してやがる。
「流石だな」
「! と、当然の結果よ」
……ま、喜んでるみたいだし良いか。
「…………」
と、ここで俺は前日の段階で気になってた内容を改めて考えることにした。
それは「ヒロインたちのステータス」について。である。
意識を向ける必要性はないが、実を言うとこの方向性が大事になってくるのだ。
例えば今回のテストでほぼ確実に浮き彫りとなった事実、もとい結果を一つ。
まず穂乃花。彼女は体育の成績が良い、つまり運動特化のステータスをしている。
逆に千代は頭が良く、聞けば一年生の頃から成績は優秀。逆に運動は苦手らしい。
ということは、だ。穂乃花と千代は対比されたステータス、いわば真逆の存在なのである。
「やっぱり千代ちゃん凄いや……」
「良かったら今度一緒に勉強しましょ。海永さんならすぐに理解できるわ」
勿論、だからといって仲が悪いわけではないが。
そして次に可憐。彼女は非常に難しいが、初対面の印象が大事なポイントだ。
千代との言い争いを思い返すに口は立つし、意外とバランス型なのかもしれない。
よく考えれば兄が生徒会長なのも、彼女がただのギャルで終わらない点の一つか。
城花先輩に関しては本当に分からない。会う回数も他よりも少なく、未だ未知数な存在。
穂乃花と同じ演劇部だが、正直、まだ俺に対して素顔を見せてない気がするんだよな……。
「春野ちゃんは何点だったの?」
そもそも初対面の時から演技をしてたようだし、実は一番怖い人物かもしれん。
いや、勿論俺に演劇部へ入って欲しいのは本心だとは思っているけど。
「わ! わたしは、その……」
俺が考えるステータス、これは恐らく彼女たちを攻略する時の指標となり得る物。
何らかに秀でた個性を見つけることで、そのイベントを完遂することが出来る。
ゲームではなく現実だからこそ、俺自身の自分磨きは大切になってくるのだ。
「えー! 春野ちゃんすごい!」
「嘘でしょ!? 私のアイデンティティが……」
と、ここで何やら美少女たちの話し声が聞こえる。一体どうしたというのか。
自分の用紙とにらめっこをしていた俺は、前で繰り広げられる戯れを見やる。
「見て景ちゃん! 95点だよ95点」
まるで自分の成績かのように報告してくる穂乃花は置いておくとして、だ。
よく分からんが頭を抱えて落ち込んでる千代も無視をしておいて、だ。
恥ずかしそうに照れている春野さんも放って……いやこれが大事なんだった。
95点。この高得点もまた、櫻野を思い出す。
いつも成績が良くて先生に褒められてたな。
皆に知られて恥ずかしがってたのも、俺は確かに覚えているよ。
***
「へー! 君たちのクラス、今日返却だったんだ」
「ああ。可憐の方はもう返されたのか?」
コクリと縦に首を振る可憐と、二人っきりでの昼食タイム。
……はすでに終了しており、少しの駄弁る時間が始まったわけだが。
日課と化してるこの時間で、いつも通りに雑談が続く。
唯一違いがあるとするならば、今日は購買を利用していないことだろうか。
「85点て、ふつーにスゴイじゃん!」
随分と軽い口調なのは、お世辞ではなく性格か。
ゴミ箱に食べ終わった物を綺麗に投げ入れると、彼女はこちらに向き直った。
「じゃあさ〜……」
そういえば彼女の成績はどうだったんだろう。
気にする俺に呼応するかのように、可憐は呟く。
「質問は2回まで。外れたら明日のお昼は奢りね」
なんの事か分からないんだが、どうしたんだ。
笑顔で隣に座り直してくるのが無性に怖いぞ。
「もしも正解したら、君の言う事なんでも聞いてあげる!」
よし。よく分からんが絶対に正解する事を決めた今。
この口ぶり的にクイズ的な何かをやらされるんだろう。
一体どういう問題なのか、考える俺に彼女は微笑を浮かべた。
「あたしの点数、ピッタリ当ててみてよ」
「……」
ピッタリ、だと。しかも質問2回だけで?
クイズよりも心理戦の方が正しいだろうか。
中々に難しいが、いや、しかし面白い。
俺が今日この日まで溜めた情報を用いて、東郷可憐の点数を当ててやる。
「質問1。可憐は俺の――
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