第13話 究極の二択の向こう側

『久しぶりにメールするよ!

最近遊べてないし、明後日の日曜どこかに遊びに行かない?

今わたし金欠だから、なるべくお金が掛からないところに……』


「む、むむ……」

俺は頭を抱える。明後日か、明後日なのか穂乃花よ。


『学級委員として、あんたにメールしてあげるわ!

最近学業を怠ってると思うんだけど、ちゃんと家で勉強してるわけ?

仕方ないから明後日、図書館へ行きましょ。色々教えてあげるから』


「う~んむむむ……」

どうして明後日なのだ千代。どうして明後日で被るのだお前たち。



「これは、いろいろ不味いことになったぞ」

俺は自室の椅子に座り、滴り落ちる冷や汗を手で拭う。

春野さんを含めた4人と連絡先を交換した、その日の夜。

自宅へと帰って勉強タイム、そして晩御飯を食べたまでは良かったが……。


「穂乃花を取るか、千代を取るか」

幼馴染とツンデレ委員長からのWメールアタック。

まさかのダブルブッキングを起こしてしまったのだ。

一体どっちと会うのか、これはまさに究極の2択問題。

俺とは違って部活に入ってる彼女たち。校外で会えるのは日曜ぐらいか。


「嘘は、言えないもんな……」


どちらか一方を選んだ場合、もう一方を悲しませてしまう。

しかもそれに加え、俺は穂乃花と千代に対して大きな「借り」があるのだ。


今日、連絡先交換で意図的に話さなかった穂乃花への詫び。

数日前、倒れた俺のために先生を呼んでくれた千代へのお礼。


そこに優劣をつける事は出来ず、俺にとっては二人とも目線は同じ。

右へ進むか左へ進むか、出口の見えない迷子道に迷い込んでしまいそうだ。


「…………とりあえず、風呂入るか」


狭い自室で考えるより余程効率が良い。

元の世界でもそうだったが、俺は風呂に入るのが好きである。

単純に気持ちいいし、凝り固まった頭脳を活性化させるのに丁度良いから。

悩みを抱えがちだった学生時代は毎日入っていたっけな。


(女性関係で悩むとは思わなかったけど)




***




「――もう一週間なんだなぁ」

『もう』なのか、『まだ』なのか、正直なところ分からない。

濃い毎日を過ごしていて、だけど俺は一年しか過ごすことができないから。


頭にタオルを置く温泉スタイルで、気づけば世界の根底について考える。

穂乃花と千代については、仮ではあるが一つの措置を発案した。

それが成功するかどうかは……彼女たちによるけど。



「お兄ちゃん」

「! どうした、かなめ」

扉越しに妹の声が聞こえる。見ればお団子頭が影で映りこんでいた。

機種変更をした前のスマホをどうしたのか知りたい、と二の句を継げられる。

言葉には出せないが、一緒にお風呂を入る展開になるかと思って少し驚いた。


「朝にも言った通り、持ってない友人に渡したよ」

「いや、それは全然いいんだけどさぁー……」

身体を揺らして口ごもるかなめ。シルエットでも分かるいじけ方である。

頭に乗せていたタオルで顔を拭き、これから来るであろう問いを予想しておく。


「そ、その友人さんって、男の人? 女の人?」


「…………………………男だぞ」

「なにその沈黙!? 絶対ウソじゃん!」

あ、バレた。





***




俺は眠る前に、再び勉強机の前に向き合う。

名の通り勉学に励むわけではなく、今日から行いたいことがあるのだ。


「えーっと、まず初日は――」


スマホのアプリに入っていた『日程』の有効活用。

これまでの出来事を文字として残せば、LOVE度の変動を可視化出来るわけだ。

例えば二日目なら「穂乃花と登校」「千代と一悶着」「可憐と保健室」などなど。

……自分でそれを書くのは、非常に恥ずかしくはあるが。

とりあえず、特に印象に残った場面を抽出していくとしよう。




ピロリン


「!」

あらかた書き終わった所で、突然メールの音がした。

横に置いてあるスマホに目を移す。恐らく穂乃花か千代かね。

先程した返信に対するアンサーか…………ん。



「…………これって」


『はじめてメールをしますね。

宮田くん、本当に今日は色々ありがとうございました。

放課後の事を思い出して、つい笑顔になってしまします。

まだ顔文字等の使い方も分からず、手探りの状況ですが、こからもよろしくお願いしますね!

いつか、お礼をしたいです。』



「…………」

春野さんからの、メール。初めての、繋がり。

ああ、今あなたはこの世界に生きているんだね。

悪戦苦闘しながら、誤字脱字をしながら、メールをくれたんだ。

あの時元の世界は貰えなかった新しい繋がりに感謝を込めながら、俺は返信した。


星が輝く夜空の下、静かに思いを馳せる事が出来た気がして。



海永 穂乃花 〇〇〇〇〇〇〇 LOVE度7

山村 千代  〇〇〇〇〇〇  LOVE度6↑

城花 明子  〇〇〇〇〇〇  LOVE度6↑

宮田 かなめ 〇〇〇〇〇   LOVE度5

東郷 可憐  〇〇〇〇    LOVE度4↑


春野 美玖  〇〇〇〇    LOVE度4↑

………

……

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