第10話 連絡先交換大作戦 前編
「ふぁぁ……」
寝ぐせでボサボサの髪を直しながら、俺は階段を下りていく。
否が応でも出てしまう欠伸を噛み殺して一階へとたどり着いた。
おはよう世界。おはよう我が妹。
「おはよ。お兄ちゃんのパンも焼いてるからね」
俺とは違って既に制服に着替え、朝食を頂いているかなめ。
昨日の夜が無かったかのように振舞うが、俺はそうもいかん。
あの時聞いた寂しそうな声と言葉、未だに耳から離れないのだ。
「ん、ありがとう」
なるべくかなめの方へ顔を向けずに、玄関の脇に鞄を置いておく。
あとは飯を食べて着替えれば、それで朝の用意は全て終了。
「わたし、そろそろ機種変更しようと思ってるんだ」
あと一口で完食まで迫っていたかなめは、パンを口に運ぶ前に言う。
機種変更。自宅でスマホを触っているのは確かによく見てきたが……。
壊れたのか、と聞けば首を傾け難しそうな顔をした。
「なんかね、電話とかメールは出来るんだけど」
「ゲームアプリとかが反応しなくなっちゃった」
へえ。よく分からないバグだし、俺のスマホとほぼ同じ機能しかないなそれ。
まあこっちは恋愛機能に特化したというか……そんな感じの、アイテムだが。
「お金は大丈夫なのか?」
「毎月ママたちから振り込まれるお金、無駄遣いしてないもん」
海外出張に行ってる両親からの振り込み。確か説明書にも書いてたな。
未成年二人暮らしとなれば中々に危ないが、それも親は承知の上だろう。
もし出来るのならば、一度会ってみたいものだ。
「だからさ、スマホ変わったらまた連絡先交換しようね」
「ああ分かった」
俺がそう言うと、かなめは手を合わせて席を立ちあがる。
流し台に食べ終わったお皿を置き、洗面所へと向かった。
恐らく鏡を見ながらいつものお団子頭を作るんだろうかね。
「スマホ……連絡先……機種変更」
(――そうだ。良い事を思いついたぞ)
俺はバターまみれになったパンを豪快に口へ運び、瞬間的に閃いた。
テレビでやってる天気予報は晴れ。外ではカラスが複数羽鳴いている。
朝を知らせる太陽の陽射しは、自分の心も明るく照らして微笑むようで。
……もしも、もしも春野さんが
(春野さんと、連絡先を交換できるかもしれない)
どこまでも分厚い壁を壊すカギは、妹の使わなくなるスマホにあるんだ。
「なあかなめ。機種変更し終わったスマホってさ――」
【数日後】
「……フフフ」
さて。授業も終わり、ついに休み時間へと突入したわけだが。
俺は今日、彼女たちと連絡先の交換大作戦を行いたいと考えている。
「なあ千代」
「? 何よ」
方法は至ってシンプル。千代、城花先輩、可憐の順に会って連絡先を聞くだけ。
一癖も二癖もある彼女達だが、それぞれに対抗策をしっかりと考えたのだよ俺は。
最初の千代は、ツンデレという事もあり教室内で聞くことは出来ない。
万が一クラスメイトに茶化されでもした場合、恥ずかしがって断られるから。
そのため……
「ちょっと話したい事があるんだが、一緒に来てくれるか」
まずはこうして誘い出す!
「え、なんか変な事されそうだから嫌だわ」
はい作戦失敗。まさかの一人目で頓挫してしまった。
こちらに向かってジト目をしてくる千代。俺、なんかしたっけ?
……まあ、ならば今日はとりあえず千代は置いておき、他のヒロインに聞こう。
(…………)
(景ちゃんの話したい事って、千代ちゃんに何話そうとしてたんだろ……)
なお穂乃花の連絡先は既に知ってるので、俺をチラチラ見てるが気づかないふり。
心が痛むけど悪いな。この件に対してはいつか必ず責任を取る。
(次は城花先輩。そして可憐の所へ行って、最後は――)
俺の目に映る一人の女性。春野さんは、会話に入らず次の授業の準備をしていた。
連絡先を交換することが出来るのか。それは、やってみないと分からない。
まず千代を相手に失敗してる時点で不安は残るものの、俺には秘策がある。
触れることが叶わなくても、願いを叶えることはできるはずなのだ。
たとえそれが、モブキャラクターという鎖に縛られていたとしても。
(二歩目を歩ませてもらうぜ、神様)
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