第6話 スタートラインを踏み抜いて

「やっと見つけた」

妹であるかなめの手料理を食した俺は、階段を上がって自室へと戻っていた。

満腹感に満たされた事で元気も出たため非常にやる気が上がっている状況。

帰宅前からの目的であったブツを探していると、引き出しの中でようやく発見する。

「随分と見つけ辛い場所に置かれやがって」

ふう、と一息ついて取り出す。これは恐らくキーアイテムになる筈だろうに……。


「ただ俺の趣味には中々あってるな、このスマートフォン」

どこにも企業の名前が書かれていないこれは、この世界限定のスマホなんだろう。

一見すると普通の物と変わりないように見える。が、何だろうかこの違和感は。

電源を入れてみると、少しの時間を置いて明るい画面が目の前に映し出された。

「……まあ、娯楽目的で使えるわけないよな」


ホーム画面に存在するのは四つのアプリ。それ以外は何にも存在しないようだ。

『電話』『地図』『メール』『日程』……ふむ、非常に分かりやすい名前で助かる。


試しに『電話』のアイコンを押すと、画面には番号と共に連絡先が出てきた。

妹のかなめ、幼馴染の穂乃花の二人である。はは、俺は何と悲しい人間なのだろう。

いくらハーレム物の主人公とはいえ、連絡先の50%が身内とは。二人だけども。


「メール……も、二人だけか」

肩をガックリと落として落ち込みつつ、椅子に座って『地図』のアイコンを押した。

自分の現在地が表示され、その名の通り近辺のマップを見ることが出来る。


「これは便利だな」

言ってしまえば見知らぬ土地に俺は居る訳で、慣れるまでの間は必需品のアプリだ。

「えーっと……ここが愛恋学園で、東に向かうと駅があって……」

頭の中に叩き込みながら少しづつ辺りを覚えていく。方向音痴にはなりたくない。

……それにしても、随分と良い立地じゃないか。俺が暮らしているこの家の場所は。

近くに学校は分かるとして、所謂イベントが起こりそうな施設が沢山存在している。


ただそんな中で特に目を引くのは、自宅の真横に描かれている一軒の民家。

幼馴染だから当然と言えば当然かもしれないが、穂乃花と俺は隣同士のようだな。

「寝てる間に俺の家に侵入とか、流石にないよな」

冗談のつもりだが何が起こるかは分からないので、それ以上は口を閉じておく。


ある程度マップを見回して覚えたので、俺は『地図』アプリを閉じて一息ついた。

「ん、もうこんな時間だったか」

頭を押さえながらベッドに横たわり、ホーム画面の時計をチラリと見る。

時刻は22時過ぎ。本来ならば全然活動できる俺だが、何故だか今日は眠たい。

恐らく今日一日で色々と考え過ぎたんだろう。

シャワーを浴びる間もなく睡魔に襲われ、自然と瞼を閉じた……その時。



ピロリン♪


「んぁ?」


<新しいアプリが追加されました>


俺の目に入ってきたのは、スマホの画面にでかでかと表示されたそんな文章。

正直眠た過ぎてもう頭が上手く回っていないが、気力でなんとか起き上がる。

アプリの名前は『LOVE』。一体これは何だ?


「彼女たちから、貴方への愛が分かります……か」

アイコンを押して出てきた初回のメッセージを読んで、色々と察する。

これは好感度表、というやつか。ヒロイン別に好感度が見れる代物だ。

誰が高くて誰が低いのか、恋愛ゲームに於いて必ず存在する一種の防波堤。

「一日の終わりにこれでも見ろって事かね」

神様からそう告げられた気がしてどこか納得した。


再度画面を押して確認すると、今日出会った複数人のヒロインが映し出される。


海永 穂乃花 〇〇〇〇〇〇 LOVE度6

宮田 かなめ 〇〇〇〇〇  LOVE度5

山村 千代  〇〇〇〇   LOVE度4

城花 明子  〇〇〇〇   LOVE度4


「はは。やっぱりメインヒロインは強いな」

言っては何だが初日ではそこまで深い関わりを見せなかった穂乃花が1番目。

まあ元々の好感度の高さに加え、彼女は構ってあげれば自然と上がるタイプだろう。

次いで妹のかなめ。これは素の好感度、そして恐らく今日の出来事が関係している。


「夕食がトリガーになって上がったのかも」

予想ではあるが、朝の時点では4だった数字が夜を経て上がった可能性が高い。

その場合俺の一挙手一投足で彼女たちの評価は色々と変わってくるかもしれん。

中々に疲れる事になりそうだが、それと同時に一つだけ確定したことがある。


「これを見る限り、LOVE度が1でもある時点で多少の好意はありそうだ」

俺に優しく勉強を教えてくれた千代、校内であんな破廉恥ハレンチ行為をしてきた先輩。

当人の性格にもよるだろうが、例えば穂乃花と先輩の間に2の差は無いように思う。

「というか、そもそもこれの上限は一体いくつなのかね……ん」


考え事をしながら、不意に画面を下にスワイプする。


「あ」



春野 美玖  〇〇  LOVE度2

中口 佐奈  〇   LOVE度1

横尾 小波  〇   LOVE度1

小野 優子  〇   LOVE度1

我妻  舞  〇   LOVE度1

………

……


「…………!?」

下に書かれていたのは、今日俺が会話をして知り合った女性たち。

なんだ、これ。ヒロイン以外の女性キャラにも好感度が設定されているのか?

頭が回らない。眠気によるものではなく、予想外の物を見てしまったからだ。


「! 春野さんのLOVE度が、上がってる……」



『おはようございます……宮田くん』

『挨拶、嬉しかったです』

『宮田くんとの友達記念』


『撮っちゃいました』



恋に不可能なんてないじゃないか。

「はは……まずは、一歩目だ」

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