第7話
「連れてってよ、こんな奴らより
役に立つわよ」
荷馬車に掛けたシートから宿屋の娘チィコが顔を出し、シヌシヌに訴えた。
村の外への憧れを示していたチィコ、刹那爆散隊の旅立ちを良い機会と捉え、荷馬車に潜り込み付いてきたようである。
シヌシヌは深刻な顔で黙り込んだ。
村に戻りチィコを送り返す、これが現実的な選択肢。
只、果たして本当にそれで大丈夫だろうか。
シヌシヌにもまだ呪いの力の全容は分かっていない。
チィコを刹那爆散隊パーティから置き去りにする事で呪いの力が発動し、彼女の命が奪われるなんて事はないだろうか。
だからといってこのまま連れて行くのは……。
――少し甘すぎるか。
目的のために手段は選ばない、そう決めたシヌシヌだが子供を前にして非情になりきれない。
シヌシヌは自分自身に呆れてしまった。
そんなシヌシヌの葛藤などお構いなしにチィコは言葉を続ける。
「ねえいいでしょ、はい決まり! これで仲間ね。ところでさ、この女の子誰?」
チィコがシートをめくるとそこにはカコ。
「兄妹? 肌の色一緒だし」
答えないシヌシヌにムッとして、今度ズンズン達に話を振るチィコ。
「あんた達、何で急にこの人の子分になったの? 一昨日まではこの人が子分だったじゃん。なんで? 」
上手く答えられない刹那爆散隊。
シヌシヌの許可なく余計な事を口走る訳にはいかない。
「おかしいよみんな、何か隠してる!ねえねえねえねえ。あ、そういえば、ブルは?」
「……」
「あいついないじゃん」
「あいつは逃げた。もう村にも戻ってこねえよ」
重苦しい雰囲気、流石にチィコも察したようだ。
「深刻ぶっちゃって……なによ……」
さて困った。
連れていく事も置いていく事も難しい。
出発早々身動きが取れない事態にシヌシヌは困った。
「おーおーおーおー刹那爆散隊ちゃんじゃないですかー。こーんにーちーはー」
重苦しい空気を吹き飛ばす何者かの声、代わって場が一気にピリつく。
荷馬車の後方からにこやかな男が近付いてくる。
下がり眉に、瞳はつぶら、頬がこけた男。
ナイフを複数本携え、堅気ではないのが一目で分かる。
――盗賊か。
周囲からはガサガサパキパキと草木を踏む複数の音、既に囲まれている。
「ズンズンちゃんそちらの紳士は誰よ、オイラに紹介してよ」
シヌシヌはズンズンへ目をやる。
ズンズンは脂汗をかいている。
二人は小声で確認しあう。
――盗賊か?
――へい
――強いのか?
――へい
「二人でこそこそ話してないでオイラとお話しようよう。オイラの名前はナッフ、そんで君達を囲んでるのが盗賊団のピンクスパイシーってんだ、よろしくな」
「……よろしく」
「お近づきの印にそこの荷馬車見せてもらうね、良い物積んでそうだよね、積み荷は全部貰えちゃったりするのかな? ありがとう優しいね」
先程チィコがシートをめくった荷馬車からは青ミイラが覗いている。
ナッフはその気である、争いは避けられそうにない。
やむを得ない、シヌシヌは命じた。
「ズンズン、ピッゴ、トンジ、ゲンス。出番だ、やれ」
「いやー……でも……」
「やるって?何を?ズンズンちゃん邪魔なんてしないよね。オイラ弱い者虐めはしたくないんだ、なるべくね」
刹那爆散隊は動かない。
「ねえ早く荷馬車見せてよ。ズンズンちゃんの事を前に虐めた時、オイラ凄く辛かった。もう虐めたくないよ」
爆散隊はまだ動かない。
「やれ、爆散隊。こんな時のためにお前らがいるんだ」
「う……、うーん」
「爆散隊!お前らの選択肢は一つだ。分かってるだろ」
「あー!!もおおおおおおおおお!!」
ズンズンはヤケクソ、剣を抜きナッフに飛び掛かった。
ナッフは低い体勢でナイフを構える、余裕の表情。
「え?」
「は?」
ズンズンが剣を振り下ろすよりも、ナッフがナイフを突き出すよりも早く二人の体は衝突した。
ナッフはまるでロープで引っ張られるように大きく、後方に吹っ飛んだ。
ズンズンの突進は野生の肉食獣並に速かった。
ナッフも、そしてズンズン自身も驚きを隠せない程のスピード。
青ミイラの装備は呪いと引き替えに、使用者の能力を飛躍的に上げる。
刹那爆散隊の力は、シヌシヌによって限界まで引き上げられている状態だ。
ズンズン、ピッゴ、トンジ、ゲンスはシヌシヌを見た。
「分かっただろ、俺達は強い。爆散隊よ、叩き潰せ」
爆散隊四人、ピンクスパイシー十五人。
この勝負、爆散隊が圧倒した。
人間離れした四人のスピード&パワーに十五人は只々蹂躙された。
「は?は?は?ふざけんじゃねえ!なんだこりゃ!」
焦るナッフ、しかしほぼ決しかけている勝敗。
なんとか勝ち筋はないか、足掻くナッフの目にこの場に不釣り合いな少女が目に入る。
最後まで諦めない、大逆転を目指しナッフはチィコを人質に取るべく走った。
迫るナッフに悲鳴を上げるチィコ。
敵の接近を察知したシヌシヌ、チィコの手を引き二人の間に割って入ると裏拳をナッフの顔面に叩き込んだ。
クリーンヒット、したはずの裏拳だが今のシヌシヌの筋力は衰えきっている。
動きこそ止めたがKOには至らない、ナッフは改めてナイフを振り上げた。
ナッフの後ろに大きな影。
間一髪駆けつけたズンズンがナイフを持った手を片手で捻り、もう片腕でナッフの首を締め上げる。
やがてナッフの体からは力が抜けその手からはナイフが落ちる。
決着はついた。
「ねえどういう事?あんた達一体どうなったの?」
チィコが興奮して質問する。
当の爆散隊とて驚いている。
そんな中シヌシヌは安堵していた。
盗賊を撃退出来た事、狙い通り爆散隊に呪いの効果が発動していた事。
そしてチィコだ。
ナッフに襲われた時の動きを見るに爆散隊のような呪いの効果は発動していない、おそらく。
お互いがお互いを仲間と認める、正式に契約を結ぶ等しないと呪いにはかからない、のかもしれない。
――まだ分からない事が多い。色々試す必要があるな。
シヌシヌは一息ついた。
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