第5話

「あんた馬鹿なんじゃないの?気が知れない」


 カソの村の少女チィコがシヌシヌに言った。

 シヌシヌの刹那爆散隊入隊を指しての事である。





 シヌシヌが爆散隊と出会ったのはカソの村に足を踏み入れてすぐ。


「あんたお父さんに飲み代払いなさいよ。町から自治警備の委託を受けてるからって何やってもいいわけじゃない!」


 チィコが数人の男達に食ってかかっている。


「はいはい払う払う。怒るな怒る怒るな」


 男達は揃いも揃って巨漢。

 少女の体は小さく、年齢はまだ十代前半くらいだろうか。

 巨漢達はケラケラ笑いながら余裕でチィコをあしらっている。


「そう言ってもう何年もお金払ってない。いい加減にして」


「我ら刹那爆散隊、もしもの時には村を守る覚悟は出来ている。その時が来たらこの体で払うさ」


 チィコは呆れ顔。


「こんな寂れた村じゃそんな機会は一生来ません。いいから払って」


「そうだなあ、チィコ。お前がもうちょっと成長して巨乳ちゃんになったら体で払ってやってもいいぞ」


「最低!いらない!」



 第一村人発見で、早くもターゲットを見つけたシヌシヌ。

 しかし話しかけるタイミングを逃し、爆散隊とチィコのやり取りをただ見ていた。


 そんなシヌシヌに爆散隊のメンバー、一人が気付く。


「なんだ?あいつ」


 この言葉を合図に視線がシヌシヌに集まる。

 先程からチィコと主に話をしていた爆散隊の頭目ズンズンがニヤリと笑った。


「早速俺達の役目が来たみたいだぜ。見てな」


 ズンズンはシヌシヌに詰め寄った。

 ズンズンの体は一際大きく屈強といえば屈強、肥満といえば肥満。

 なかなか迫力がある。


「おい誰だてめえ。刹那爆散隊の断りなく余所者が、このカソの地に足を踏み入れることが出来ると思ってんのか? 荷物を改める。持ってる物を全て下に置け」


 この展開はシヌシヌにとって都合がいい。

 後は宵闇櫻會の時と同様に青ミイラをちらつかせ、爆散隊に取り入ればいい。

 シヌシヌはわざと目立つように青ミイラの欠片を置いた。


「おい……。ずいぶん良い物持ってんじゃねえかよ」


「差し上げますよ」


「……マジ?」


「条件がありますが……。広く名の轟く刹那爆散隊に是非とも入隊したい。受けていただけるならもっと差し上げます」


 ズンズンは上機嫌になり、シヌシヌの入隊を快諾した。





 村唯一の宿屋兼酒場の娘チィコに案内され、シヌシヌは宿に向かった。

 道中少女は呆れ顔だ。


「気が知れない、馬鹿じゃないの?爆散隊なんて只の田舎者のごろつきよ。あんな高価な物、出す価値ない。どうかしてる」


「そんなことないよ、彼らはなかなか腕っ節が強くてそれなりに悪党だ。俺にとってはちょうどいい」


「私なら絶対に出さない。私だったらそれを元手に村を出て、世界中を旅して回る。それか都会に家を買って刺激的な生活を送る。あんたみたいな馬鹿な使い方はしない」


「村を出たいのか? ダサい不良グループがいる事を除けば、いい村だと思うんだけどな」


「あんた、爆散隊に憧れてるんじゃないの? 意味分かんない」


 二人は宿屋に辿り着いた。





 宿屋の一階部分にあるバーにて行われたシヌシヌの歓迎会。


「酒も食い物もどんどんもってこい。無銭飲食も今日で終わりだ、

今までの分だって全部払ってやる」


 ズンズンは上機嫌。


「お金を払うのは当たり前。偉そうに言わないで」


 少し離れた席で頬杖をついたチィコが吐き捨てるように呟いた。

 ズンズンはそんな事お構いなしに夢を語る。


「もうケチな悪さはお仕舞いだ。この青ミイラを元手に刹那爆散隊の勢力を拡大させる。このカソの地から名を上げてみせる。刹那爆散隊を、このカソの村を必ず大きくしてみせる。もう田舎ッぺだの未開の辺境だの絶対に言わせない」


 ズンズンは宵闇櫻會のテオと違い、郷土愛が強いようだ。


「そのためにはお前らの力が必要だ。ピッゴ、トンジ、ゲンス、そして我が友ブル。どうか俺に力を貸してくれ」


 きりりとした顔のブルから手を差し出し、悪党たちはがっちりと握手を交わす。


「シヌシヌ、お前にも働いてもらうぞ。我が隊の財務大臣だ」


 シヌシヌはニコニコと頷く。


 チィコの父、宿屋の主人が田舎で出せる精一杯のご馳走を皿に載せ現れた。

 今までのツケを払ってもらえるという事でヘラヘラと愛想が良いが、その目は暗い。

 不良同士のいざこざで治安が悪化する事を危惧している。





「すげーマジである。全部でいくらになるんだこれ」


 シヌシヌは今回も山中の小屋に青ミイラを隠している。

 そこに現れたブルがブツを確認し大興奮。

 今は真夜中、朝になる前に仕事を終えなければならない。

 ブルはせっせと用意した荷車にブツを載せ始めた。

 爆散隊の仲間はいない、ブル一人である。



 ギイ……小屋の戸が開く音。

 ブルはびくっと振り返った。


「おい……嘘だろブル……」


 そこには刹那爆散隊。


「いや……ズンズン……これは」


「シヌシヌから全て聞いた。お前シヌシヌを脅して青ミイラを独り占めしようとしてたんだろ?」


「いや!違う!こいつ……この青顔野郎から持ちかけてきたんだ!」


 ブルはシヌシヌを指差す。

 シヌシヌは首を横に振った。


「そんな事をして一体何の得があるっていうんです?」


 ブルは必死に弁解をしたが聞き入れられない。

 ズンズンは顔を歪めて吐き捨てた。


「本当ならてめえを袋叩きにしたい所だ。だが……お前は俺の親友だった……勘弁してやる。お前とはこれまでだ、失せろ」


 正式にブルは刹那爆散隊から追放された。


「俺の言ってる事が本当だ、信じてくれ。そいつは怪しい、このままだと後悔する事に――」


 懇願の途中で突然胸を押さえたブルは仰向けにバタリと倒れた。

 ズンズンは慌てて駆け寄るがブルは既に息絶えている。

 呆気に取られる刹那爆散隊。



 それを確認しシヌシヌは内心ほっとしている。

 呪いの力、シヌシヌを外せないだけでなく誰かがパーティから抜ける事でもやはり死を招くと確認出来た。

 こうしてブルの死をみせしめに、他の連中は生かす事にも成功する。


「こういう事なんですよ」


 シヌシヌが口を開いた。


「???……どういう事?」


 察しの悪い連中、といってしまうのはあまりに気の毒。

 この場面で状況をすぐに理解出来る者はそうはいないのではないか。

 シヌシヌはまさに目の前で起こった事を一から説明してやらねばならなかった。                                                                                                                                     

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る