第3話
ネコに捕らえられたシヌシヌ、顎髭に絡め取られコレクションされた。
ネコのコレクション達は何層にも重なっている。
新しく捕らえられた人間は、表へ表へ飾られる。
よって古いものは顎髭の奥へ奥へと追いやられていく。
シヌシヌはネコの最新のアクセサリー、一番目立つ位置に飾られた。
古いアクセサリー達は既に死に絶え、朽ち果てミイラや骨と化している。
シヌシヌの未来の姿だ。
比較的表の新しいアクセサリーはまだ命を永らえているが、既に気力をなくし虚ろな目をしている。
シヌシヌのより近い未来の姿。
「もう終わりだ……」
シヌシヌは自分の未来を想像した、すると急に呼吸がしづらくなる。
シヌシヌは喉からヒューヒューと空気を漏らし、脂汗を大量にかきながら顔を歪めた。
目からは涙が、次から次へと溢れ出してくる。
止める事が出来ない。
いつもはクールと言われ、街の女の子にも評判のシヌシヌだがこの時ばかりは嗚咽、呻き声を上げて泣いてしまった。
「大丈夫?」
すぐ側で声がした。
隣に少女がいた。
シヌシヌと同じネコに囚われた少女。
飾られている位置から考えて、シヌシヌの次に新しいアクセサリーなのかもしれない。
シヌシヌは腹に力を込め、呼吸を整えた。
未来への悲観をひとまず端に置き、頭の沸騰を沈めていく。
少女を目の前に涙も止まった。
「大丈夫、大丈夫だよ」
シヌシヌは精一杯笑顔を作った。
見たところ少女は十五にも満たないのではないか。
こんな子供が過酷な運命の中、自分を気遣ってくれている。
みっともない姿は見せられない。
冒険者として未だ駆け出しのシヌシヌだが、その辺の矜持は持っている。
ただの見栄っ張り、格好つけではあったがそれでも意地がある。
「話し相手になってよ」
少女の言葉にシヌシヌは頷く。
少女は話し始めた。
「今は私達こんな状態だけど希望はあるんだ。一年間正気を失わずに耐え抜けば、私は呪いの力を手に出来る。それで私をこんな目に合わせた奴に復讐するんだ」
――何を言ってるんだ?この子は。
シヌシヌは困惑した。
「聞きたい?教えてあげる」
少女の目は本気だった。
「青ミイラや青骨は呪いの装備の材料になるでしょ。今の私達はまさに青ミイラや青骨になろうとしている段階。正気を保って生き残れば、その力を自分で使えるようになる。自分自身が呪いの装備になれるって事」
分かったような分からんような。
「それって誰から聞いたの?」
「そこにいるおじさん、もう喋らなくなっちゃったけど」
少女の示す先には、生きる気力を失った痩せこけた男がいた。
「本当かよ……」
シヌシヌは思わず呟く。
「私は信じてる。で、正気を保つために私の話し相手になって。貴方にとってもいい話でしょ。私はカコ、よろしくね」
シヌシヌはカコから復讐の夢を散々聞かされた。
復讐なんて悪趣味な、シヌシヌの矜持がそう言っている。
もちろんデューン達を憎む気持ちはあるが、シヌシヌの価値観の中では正直躊躇いがある。
しかしシヌシヌはカコの復讐計画を魅力的に感じてしまっていた。
自分もそんな風にデューン達に鉄槌を下せたら……。
黒い感情が湧いてくる。
そしてその感情の力強さに驚いた。
今目の前にある地獄を耐え抜くにはこの黒い感情に身を委ねるしか方法はない、シヌシヌはそう感じていた。
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