運命の相手【1】

 「約束!またもし、出会えたら今度はずーーっと一緒にいようね!」

 「うん!」


 互いの手には対となるペンダントが握られている。大きな宝石が、精巧な金細工に支えられて眩いばかりの光を放っている。

 平凡といった格好の少年の手には、深海を閉じ込めたような深い青の宝石が。

 高価なドレスを着た少女の手には、夕焼けを閉じ込めたような濃い赤の宝石が。


 少年は少女からもらった青のペンダントを自らの首にかけ、彼女と笑いあった。

まるでこの世に二人しか存在しないかのような錯覚をさせる、広大な草原での出来事であった。



 「あぁ、どこにいるんだ…。僕の運命の相手は」

 僕はイズ。毎日ギルドで仕事を見つけ、主に魔物討伐で日々の生計をたてている、しがない青年だ。今は、ギルドのクエストボードの前でうなだれている最中だ。早く仕事を見つけないと、そろそろ寮を追い出される。家賃の滞納は、とうに3か月を過ぎていた。そろそろ、本当に、冗談抜きで、やばい。


頬杖をついた隣の女が、

「その、『運命』子ってのは、相当なお嬢様だったんでしょ?貴族の方を片っ端からあたってみればいいじゃん。何なら、クエスト関連で知り合った貴族を紹介してあげようか?」


 と、笑う。僕を小バカにしたような顔で笑うこいつはソフィ。いや、バカにしているのは確実だ。こいつは、最近ギルドにやってきたルーキーでありながら、ギルドスコアをメキメキと伸ばしている敵。正直、彼女においしいクエストを根こそぎ持っていかれているため、恨む、というより憎い。


 僕の所属するギルドは、個々人でクエストを完遂し、ギルドスコアを貯める。そしてそのスコアに応じたクエストをこなせるのだ。僕や目の上のたんこぶのソフィは、同じAランクだ。ギルドに飛び込んで早二年、ようやくたどり着いたAランクなのに、こいつは瞬く間に僕の感動を奪い去った。癪に障る。あぁ、そうだ、悔しくてしょうがないんだ。


 「なんだよ、ギルドのエース様は貴族様と繋がりがあるっていうのか?嫌味な奴だなぁ。確かに?僕の愛しの彼女はいつも綺麗な服を着てたけどさ…」

当時の甘酸っぱい約束を思い出して、恥ずかしくなってきた。もごもごと呻く僕を無視して、ソフィはいきなり大声を上げた。


 「見て!!今のあんたにぴったりかつ、私にも得なクエスト見つけた!」

 ばんっと、乱雑にクエストボードからはぎ取った紙を僕に押し付けてきた。


 「ぱーてぃー?」

 どうやら、隣国の王の婚約発表のパーティーがあるらしい。王族はいいよな、貴族とすぐ結婚できて。僕はまだ手がかりさえ掴めていない平民なのに。…いや待てよ。このパーティーは、王族主催、つまり彼女が来るかもしれない…。彼女も僕くらいの年だったから、祝いに来る可能性はゼロじゃない!


…隣でニヤニヤしている奴と目を合わせたくない。してやったり顔の誇らしげな表情で見ている。完全にこいつのペースだ。にやつくだけでなく、恩着せがましい顔をしているのにも訳がある。

 「それで?イズさん。このクエストの条件は、男女ペア、そしてなによりこのギルドを代表して行く訳であるから、ランクA以上。このギルドには、Aランクの女性は限られているよねぇ?しかも、みんな忙しいかも」

 一息ついて、圧力を掛けてくる。

 「今、あなたの隣にいる美しい女性は、Aランク。そして、イズさんの『運命』の相手探しに尽力すると言っています。参加しま??」

 「…す」


 僕はこいつに従ったわけじゃない。運命の彼女を探してたい一心と、内容のわりに高い報酬に目がくらんだ。今月の家賃は、安泰だ。

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