バイノーラルマイク 〜ゆきちゃんとユビキタス〜



「ゆきちゃーん。おじゃまするね」



「どうぞ」



「はぁ、今日も疲れたなー」



「おつかれさまです。お茶でも入れましょうか?」



「あ、お願いしてもいい?」



「まかせてください。ちょっと待っててくださいね。何かお茶菓子で出しますから」



「いや、それくらいは僕やるよ。勝手に棚見てもいい?」



「はい。お好きなもの食べてください」



「ありがとう。どれどれ……。——うおっ!」



「侑希さん?」



「顔! 人の顔が!」



「顔?」



「人の顔が棚の中に……」



「なんだバイノーラルマイクじゃないですか。そんなに大きな声出さないでください」



「ほんとだ。なーんだ、ただのバイノーラルマイクか。……とはならないけどね! 何? なんでそんなのがゆきちゃん家にあるの? ゆきちゃん配信でもしてるの?」



「違いますよ。ほら、ちょっと前にユビキタスが流行ったじゃないですか?」



「あー、オンライン授業とかね。そっか、先生だとそういうこともしないといけないのか」



「はい。それでマイクが必要で……」



「なるほどね。それでバイノーラルマイクを買ったのか。……とはならないけどね! なんでバイノーラルマイクなの? 普通のマイクでよくない?」



「せっかくなので、バイノーラルマイクでオンライン授業をやろうと思って」



「は?」



「耳元でささやくように授業をしようとしたら、教頭先生に怒られました」



「でしょうね。よかった。教頭もまともなところあるんだ。っていうか、なんでバイノーラルマイクで授業をしようと思ったの?」



「ほら、実際に会えない分、児童を近くで感じたいじゃないですか」



「児童がゆきちゃんを近くに感じるだけで、授業をしてる君は感じられないでしょ……」


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