最強 〜ゆきちゃんとケガ〜



「痛てっ……」



「侑希さん? どうしたんですか?」



「紙で小指切っちゃって。痛てて……」



「大丈夫ですか? 救急箱持ってきましょうか?」



「ごめん。お願いしてもいい? てて……」



「はい。……、これで大丈夫だと思います」



「ありがとう。ケガなんて久しぶりだよ」



「もうすぐころっといっちゃうかもしれませんね」



「そうだね。——え?」



「?」



「適当に相槌したけど、ゆきちゃん今なんて言った?」



「ころっといっちゃう」



「僕が?」



「はい」



「なんで!? 勝手に殺さないでよ」



「作業中に小指をケガしたんですよね。ほら、本多ほんだ忠勝ただかつの話知らないですか?」



「ホンダ? 誰?」



「戦国時代の武将です。徳川とくがわ家康いえやすに仕えた人で、戦国最強の武将って言われてますよ」



「最強? 織田おだ信長のぶながじゃなくて?」



「最強なんです。生涯で何十回も戦に出陣したのに一回もケガをしなかったそうですよ」



「へー、それはすごいね。それで、なんで僕が死ぬことになるの?」



「本多忠勝は戦で一回もケガを負わなかったのに、晩年に小刀で手を切ってしまったそうなんです。それで、その数日後に病で亡くなったらしいですよ。諸説あるので、戦でのケガも含めて本当かはわからないですけど」



「僕が死ぬ理由に全然なってなくない? それって、戦では最強の男でも老いと病には勝てないってことでしょ、たぶん。僕最強でもなんでもないんだけど……」



「はぁー、かっこいいです。本多忠勝。将来結婚するなら忠勝みたいな人がいいです……」



「話聞いて?」


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