落ち込みたい



「侑希さん、侑希さん」



「んー?」



「ねぇ、侑希さん」



「?」



「えへへ。侑希さん」



「……どうしたの? ゆきちゃん。君こんなに甘えん坊だったけ?」



「えーっと、侑希さんは実家に帰った日の夜のこと覚えてますか?」



「ん?」



「ほら、私が雪斗のことで落ち込んでて……」



「ああ、あったね」



「あの時、その、すごく優しくしてくれたじゃないですか」



「ん。あ、ああ。あれのことか……」



「その、もう一回して欲しいなって……」



「え? ダメだよ」



「へ? なんでですか……?」



「あの時は、ゆきちゃんほんとに落ち込んでてでしょ。だからだよ」



「今だって、落ち込んでます……」



「じゃあ、何に落ち込んでるの?」



「それは……」



「ほら、ダメだって。ああいうことはほんとに大事な時にするものなの」



「せっかくの、お泊まりなのにですか?」



「いや、何もしないわけじゃないからね。ただ、あの日ほどはってだけで……」



「……わかりました。でも、真剣に落ち込んでる時はこの前みたいにしてくれるんですよね?」



「まぁ、それでゆきちゃんが少しでも元気出るなら」



「うーん。そうだとすると私は落ち込まないといけないんですね……。それを楽しみにするって変じゃないですか?」



「ああ、確かに。それは変だね。僕だってゆきちゃんにとって嫌なことなんて起きてほしくないし……」



「……」



「……わかった。今日のお泊まりを楽しみにしてくれてたんでしょ」



「……うん」



「今日だけだよ」



「いいんですか……?」



「うん。さっきはごめんね。ほら、今のも含めてだけど、その、おいで」


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