揚げパン 〜ゆきちゃんと何やってんの?〜



「……侑希さん、聞いてください」



「おう……。どうしたの? すごい負のオーラが見えるんだけど」



「今日すごく恥ずかしいことがあって……」



「うん」



「その、研究授業ってわかりますか?」



「あー。あれでしょ。いろんな先生が教室の後ろに立って授業を観るってやつ。先生版の授業参観みたいな……」



「それです。大体そんな感じなんですけど……」



「なんかめっちゃ嫌な予感がする。なんかやっちゃった……?」



「その、今日の給食が揚げパンだったんです」



「え? いきなりなんの話? 研究授業と何も関係なくない?」



「それで研究授業は五時間目だったんです」



「うお……。やばそうな気がしてきた」



「それで私給食をいただいて、すぐに授業の準備をしたんです」



「うん」



「かなり緊張してたので、昼休みを全部使って準備とリハーサルをしたんですけど」



「うん」



「いざ授業が始まってみるとすごく視線が私に集まってるんですよ」



「そりゃ、教壇に立って授業してたんでしょ。視線を集めるのは当然だと思うけど」



「それが児童もみんな私の顔をじっと見てて……。普段あまり授業を聞かない子も凝視してました」



「なるほどね。大体わかってきた」



「それで教室の後ろで立ってた教頭先生が自分の口周りを指差してたんですよ。口の前で円を描くようにくるくると」



「ああ、合図を送ってくれてたんだ。それで?」



「私、それが声が小さいって意味なのかと思って……」



「おう……」



「がんばって声を張ったんです」



「あらら……」



「それなのにどれだけ声を出しても教頭先生はずっと口周りを示しながら、何かを伝えようとしてて……」



「なんてこった……」



「それで一人の児童が教えてくれたんです」



「……」



「『ゆきせんせい、口にあげパンのこなついてるよ』って」



「かわいそうに……」



「恥ずかしかったです」



「今の話で感想それだけ……?」


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