第6話 ヨットの上で…
八景島のヨットハーバーには学習院や多くの大学のヨット部の艇庫がある。
僕らは違う場所だったのでうらやましいな、この雰囲気は懐かしいな、と思うのだが、女子大生は日焼け対策をばっちりして昔の面影はない。
みんな同期も後輩も女子も真っ黒だったからね。
後輩のシンヤがはるか昔、ここでヨットのインストラクターのバイトをしていてメンバーとなっていた。タカもいつの間にかメンバーとなり、そんな関係で先日、僕はヨットに誘われた。
シンヤと同期の横山も来ており、自然と僕とタカ、シンヤと横山が交代でヨットに乗ることになった。
艤装(セイルやその他のロープ、器具の設置)をほぼ後輩にやらせながら僕とタカはどちらがスキッパーをやるか話していた。
「堀ちゃん、スキッパーやって」
タカは言うが、このハーバーは初めてだし、ちょっとね。
「タカさんと堀さんのコンビで、堀さんがクルーなんて信じられないですよ…」
シンヤがセイルをあげながら言ってきた。
「久しぶりに本当の堀、タカ組が見たいです」
横山も僕のスキッパーを促す。
まったくもう、困ったもんだよ、本当ってなんだ。まあいいけれどね。
結局僕がスキッパー、タカがクルーで出艇した。
東京湾内でのセイリングは初めてだった。
「堀ちゃん、波が安定してないでしょう」
タカが言う。
「うん、ごちゃごちゃだね」
波があらゆる方向から来る。
「違うよね、相模湾とはさ…」
そうなのだね、場所によって違うのだね。
僕らはセイリングを楽しみどうにか無事、ハーバーに戻り桟橋に着艇することができた。
「お二人のペア、久しぶりに見ましたよ」
シンヤが笑っている。
「帰ってこられてよかったよ、波がむちゃくちゃだね」
僕がライフジェケットを脱ぎながら応える。
「J-2130コンビは何のお話をされたのですかね…ヨットの上で…」
横山が笑いながらそんなことを訊いてきた。
「ああ、子供の話とかね、堀ちゃんのお嬢さんは薬科大に学校推薦で入ってさ…」
「タカの長男さんはW大のボート部だってね…、S川のレガッタに出るとか出ないとか…」
シンヤも横山もニヤニヤしながら僕らの会話を聞いている。
「あと何話したかな…タカ。そうだ給与システムのこと話したね、うちの薬局はまだ紙だけれど、タカのところはパッケージソフト入れていて、俺もそれ使おうかなって話したんだ」
「でもコロナ下で薬局も大変だな、ワクチン配っているんだって…とかそんな話だけど、どうした、横山、シンヤ…」
後輩二人は相変わらず笑っている。笑顔は学生時代のままだね。
「いや、あの、昔からJ-2130コンビというか、河井さんも含めて変わらないですね…」
シンヤがヨットの舷側に桟橋から足をかけた。
「昔からですね、先輩方コンビは変わらない…」
僕とタカはお互いに目を合わせた。彼らは何が言いたいのだ?
「ヨット部の他の船に乗るのは緊張したのですよ…」
シンヤはすでの船上の人になっている。
「そうだよな、W先輩とかH先輩とか怖くて…」
横山も舷側をまたいだ。
「でもJ-2130に乗るときはほっとしていたのですよ、僕らは」
セイルやラダーのチェックをしているシンヤ。
「そう、J-2130は僕ら後輩たちのオアシスでした」
横山も船に乗り込んだ。
「先輩方、あいかわらずですね…」
シンヤの目は行先の防波堤の方向を見ている。
「ほんと、変わらない…」
横山は船から桟橋にいる僕らを見上げた。
「J-2130はヨットの上で…」
シンヤと横山は船上でお互いに目をあわせたあと、桟橋からすでに数メートル船が距離を置いたことを確認して、声を合わせて僕らに言った。
「ヨットの話をしない!」。
了
ヨットの上で… @J2130
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