第2話 給湯器(ヨットのことではないのに嬉しくて)
次の現役最後のレースには、僕とタカがJ-2130で出ることになっていた。
二人で練習しなくてはいけないのだけれど、実は二人とも船舶免許を持っていた。
部内で船舶免許を持っていたのは小杉とタカと僕の3人だけだったので、練習のさいには、この3人のうち誰かが救助艇に乗らないといけない。
小杉がヨットに乗っている、食事当番などで救助艇に乗れない、そんな時、僕かタカがそれに乗るので、J-2130のコンビは必然的にヨットと救助艇に分かれることになった。
そう、実は他の艇と違いタカと僕は二人での練習量はかなり少なかったのですね。
でもなんかそれは二人とも大丈夫な気がしていました。
海から帰るときも車でずっといっしょだったし、救助艇の修理やエンジンのメンテナンスも二人で業者に頼み行ったり、船の上じゃなくてもずっといっしょだったから。
「時間増やしてよ」
とは言わなかったです。
救助艇の操船者の事情は僕もタカもわかっていたし、なにしろJ-2130はゆるい船だったので。
***
今現在、これから書くお話のような給湯器の設置には業者を呼ばないとできないことになっています。器具も特殊なものになっていますので真似しないでください。
30年前のお話です。
「給湯器つけよう」
冬の冷水での洗い物はきつい。
僕らの合宿所には当時まだ給湯器がなかったのです。
後輩がすすんでやるから、なおのことできるだけ早く対処しないと。
通常の日曜の練習後、タカは言った。
「ダイクマで買ってきて、俺たちでつけよう、堀ちゃん金ある?」
「なくても出すけれどさ、自分たちでつけられるの?」
「とりあえず買いに行こう、きっと店員さんに訊けばわかるよ」
そのころまだ横須賀にあったダイクマに行き、給湯器を見て店員さんに個人で設置できるか相談し、ガス漏れしないようなテープや分岐のガス管、水道管を買い、合宿所に引き返したのはもう19時過ぎだった。
みんなが帰った後で、合宿所は静まりかえっていた。
さっそく僕とタカは給湯器を設置しはじめた。
工具はいくらでもあってヨットの修理でなれているし、本体の設置は比較的容易にできた。
あとは肝心の水の配管、ガスの配管となったが、ちゃんとダイクマの店員さんに聞いたとおり、水もガスも合宿所に入るところの元栓からとめてなんとか二人で完成させた。
あの独特の点火音のあと、火がつく心地よい響きがあり、蛇口からお湯がでてきたとき、
「タカ、すごい!」
「堀ちゃん、なんか文化生活って感じだ!」
感動した、よく覚えている。
これで後輩たちも冷水に悩まされずにすむし、なによりタカと二人でこんなすごいことができたのがうれしかった。
もう21時をまわり、このあと家に帰ると23時過ぎになる。
だけど、僕とタカは意気揚々と帰った。
「やったね、よかったね」
ヨットの成績でもないのに、練習やレースでいい結果を出したときよりも、なぜかずっとずっと嬉しかった記憶です。
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