第107話
「どうやら援軍は、間に合わなんだようじゃの」
水晶湖守備隊の天幕近く、
大きな木の枝に腰掛けて黒い日傘を差していたエルアーレは、ひょいとそこから飛び降りた。
「おい、そこの若いの、中のお偉いさんを呼んでくれ。どうやら目当てが来たようじゃ」
それから天幕前で警備を担当する若手騎士に、弾んだ調子で声を掛ける。
現在この場所で、警備を担当している騎士は全部で六人。少し離れた宿泊施設に居る交代要員を含めても、その数は二十人程度にしかならない。
「本当に来たのか? うちの索敵担当からは、まだ何の連絡も無いのだが?」
すると白髪混じりの男性騎士が、驚いた様子で天幕から姿を現した。
「儂らはちょいと、出来が違うからの。お主ら人間よりかは感覚が鋭い」
しかし流石のエルアーレも、大きな力の接近が判るのみで、その数までは判らない。
ひとつか、ふたつか……
その数
「ルサルサも馬鹿ではないからのう。望み薄か」
エルアーレはそうひと言呟くと、南から接近するドンヨリ曇を、苦笑いのまま見上げ続けた。
~~~
「あら、エルアーレ。もしかして、お待たせしてしまったかしら?」
結界の祠の入り口に近い湖のほとり、黒い日傘を差して水面を眺めるゴスロリ姿の少女に向けて、同じく黒いナイトドレス姿の女性が声をかけた。
淡い黒髪の毛先をカールに巻いたのロングヘア。切れ長の細い目には、ネコ科のような縦長の黒い瞳孔の赤い瞳。キャバクラ風の黒いロングドレスは、胸元と背中がV字に大きく開き、大胆なスリットが綺麗な美脚を強調している。
「いや、そうでもないぞ、ルサルサよ。儂もちょうど、今来たところじゃ」
笑顔で返事を返しながら、エルアーレは黒い日傘をバサリと畳んだ。いつのまにかドンヨリ曇が空を覆って、今にも雨が降り出しそうだ。
「ところで今日は、お主ひとりか?」
「ええ、そうよ。思惑が外れて、ごめんなさいね」
右手の甲を口元に添えて、ルサルサはホホホと優雅に微笑む。
(これじゃから、ルサルサの奴は嫌いなんじゃ!)
そんな彼女にエルアーレは、内心で悪態ついて舌を鳴らした。
おそらくバグナーは、英雄殿たちのもとへと向かっている。これではここで大暴れして、女神族を誘き寄せる作戦が成立しない。
どうやらエルアーレたちの未来は、分が悪い方へと進んでしまった。
「さあ、お喋りはここまでにして、そろそろ開演といきましょうか!」
そのとき艶めかしい声を響かせて、ルサルサが両手を一杯に開く。同時に一本の巨大な水柱が、彼女の足下から天高くに噴き上がった。
やがて、水柱から現れたその怪物は、
「
遠巻きに潜んでいた初老の守備隊長が知る、神話の怪物と同じ姿をしていた。
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