第103話

「なんじゃ、もしかしてここを、襲撃から守り切りおったのか?」


 水晶湖にある結界の祠、


 壊された門の修繕にあたっていた守備隊の若い男性騎士が、不意に声を掛けられた。


 驚いて背後に振り返ると、そこに居たのは金髪縦ロールの姫さまカット、白いフリルのゴスロリ黒ドレスを着た少女。


 少女は黒い日傘をクルクルと回しながら、猫のような黒く縦長の瞳孔が印象的な金色の瞳で、興味深そうに見つめてくる。


「ここに守備隊が常駐しているなど、全然聞いておらなんだが…?」


「お嬢ちゃん、何処から来たの⁉︎ ご両親は⁉︎」


 しかし驚いた男性騎士は、少女の言葉に耳を傾ける余裕など全く無かった。


「この公園は封鎖されていて、今は観光とかは出来ないんだよ⁉︎」


「この、たわけがっ!」


 次の瞬間、瞬時にたたんだ黒い日傘で、少女は若い男性騎士の頭をスパンと叩く。あまりに予想外の出来事に、男性騎士は、呆気に取られたまま立ち尽くした。


「お主では全然全く話にならん。直ぐに儂を、ここの責任者の元へと連れて行け!」


 ~~~


「すまない。もう一度、言って貰えるか?」


 守備隊の指揮を任された男性騎士が、エルアーレと名乗る少女を訝しげに観察する。


 ここは結界の祠より少し離れた、森の木々の開けた場所。そこに張られた天幕の中で、エルアーレは白髪混じりの初老の男性騎士と対峙していた。


「じゃから何度も言っておる! 近いうちに魔族が攻めて来おるから、もっと守備を固めるんじゃ!」


「ふむ、魔族…」


 部隊を指揮する初老の部隊長は、両腕を組んで考え込む。どう見ても成人前のこの少女、一体どこまで信じれば良いのやら……


「お嬢ちゃんの年の頃で、魔族なんて存在を、何処で覚えてきたのだい?」


「お主、儂を馬鹿にしておるのか?」


「いやいや、滅相もない。この身ですら、魔族なんて存在に出会でくわした事など一度もない。それが、お嬢ちゃんのような年端もいかぬ少女が一体どこで…」


「成る程のう、そう言う事か」


 そこまで聞いて、エルアーレは満更でもなさそうに頷いた。


「しかしそれを語って聞かせる程の時間的ゆとりもない。フィアホルンにる英雄殿たちに儂の名を照会して貰っても構わんが、援軍の要請も同時に行って貰うぞ」


「英雄殿…⁉︎」


 それは通達のあった、魔族との遭遇事例。


「お嬢ちゃん、まさか、あの場に居たのか⁉︎」


「なんじゃ、知っておるのか。ならば話は早い」


 エルアーレは肩幅に足を開いて背筋を伸ばすと、肩口の金髪縦ロールを右手の甲でパサリと弾いた。


「儂は見た目通り、か弱き女子じゃ。頼れる強者ツワモノを集めて貰わねば、ここは守り切れんぞ!」

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