第67話

 マリナジーテは、トルネ河を定期連絡船で30分ほど下った所にある。


 帰りの連絡船の時刻も考えて、会食は翌日のお昼に設定された。


 そして今日、グレイスに連れられて、神木公平と佐敷瞳子がこの港町に到着した。


 船上でも多く見かけたのだが、如何にも傭兵風の人たちが、街の住人たちに混ざり合って多数往来している。


 不思議に思った神木公平が、一番最後に桟橋を渡ってきたグレイスの方に顔を向けた。


「普段からこんなに、傭兵の人たちが居てるものなんですか?」


「普段はそうでもないのだけど…今日は一体何事かしらね?」


 グレイスは辺りをゆっくりと見回すと、笑顔で小首を傾げる。


「まあそれはさておき、とにかくお店に向かいましょう」


 パンと一度両手を叩いて、グレイスは満面の笑みを浮かべた。


 連れて来られたのは、港に程近い一軒の定食屋であった。傭兵組合の本部長というので、高級そうな老舗の料亭を想像していたのだが、どう見ても普通の大衆食堂だ。


 神木公平と佐敷瞳子は、お店の前でお互い顔を見合わせると、少しホッとしたように笑い合う。高級料亭なんかに連れて行かれた日には、緊張で料理も喉を通らないに違いない。


 出てきた料理は、まるで宝石箱のような海鮮丼であった。蓋を開けた瞬間に、どんぶりから光が溢れ出し、神木公平の食欲を十二分に刺激した。


 その味も…実に最高だった。神木公平は両手を合わせて、食後の余韻を堪能する。


 横を見ると、佐敷瞳子も幸せそうに頬を染め、両手を合わせて頭を下げていた。


「喜んで貰えたようね」


 そのとき、二人が食べ終わるのを見計らって、グレイスが口を開く。


「この後少し所用が入ってるの。二人は適当に時間を潰しててね」


 そう言ってニッコリ微笑むと、会計を済ませて店を出ていった。


「じゃ、俺らも適当にブラつくか」


 神木公平は先に席を立つと、左手を佐敷瞳子に差し向ける。その行動に、佐敷瞳子は一瞬驚いたように目を見張った。


「あっ、悪い…つい癖で」


 それに気付いた神木公平が、慌てたように左手を引っ込める。


「ううん…嬉しい」


 佐敷瞳子は、もう一度神木公平の左手を引き戻すと、笑顔でギュッと握りしめた。


   ~~~


 二人が街を散策していると、佐敷瞳子の視界の隅に、突然赤色のタグがピコンと跳ねた。


 そんな初めての反応に、佐敷瞳子が驚いて視線を向ける。港の埠頭の一角で、バザールのような催しが開かれていた。


「公平…くん」


 佐敷瞳子は、繋いでいる神木公平の左手をクイッと引っ張る。


「ん……ああ、フリマか?」


 呼ばれて神木公平が振り返ると、向こうでバザールが開かれている事に気が付いた。


「せっかくだし、行ってみるか?」


「……うん」


 佐敷瞳子は頷きながら、赤いタグをジッと見つめていた。

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