第57話
「俺が、その小僧を恐れている…だと?」
ハルベルトの吊り目が、更に激しく吊り上がる。
「そう」
佐敷瞳子も、力強い瞳でジッと睨み返す。
「…おい進行役、サッサと開始の合図を出せっ! この地味女に、力の差を思い知らせてやる」
二人はお互いに暫く睨み合っていたが、ハルベルトが忌々しそうに吐き捨てた。それから踵を返して自陣ゲートへと戻っていく。
「ハルベルト様っ」
ハイスとロートが慌てたように後を追いかけ、その両サイドに肩を並べる。
「気が変わった。俺の最大の魔法で一気に終わらせる。お前たちはそれまでの時間を稼げ」
「…はい、承知致しました」
二人はキツく唇を結ぶと、何かを決心したかのように揃ってゆっくりと頷いた。
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「瞳子、アイツが俺を恐れてるって…一体何の冗談だよ?」
自陣のゲートに戻りながら、神木公平が困ったような苦笑いを佐敷瞳子に向けた。
「…何となく」
佐敷瞳子は前を向いたまま、囁くように呟く。
「あの人たぶん…公平くんの方が強いって、本能的に気付いてる。でもそれを、プライドが邪魔して…認めたくない」
「俺の方が強いって…お前な」
「公平くんは、強い。自信持って…」
そう言って佐敷瞳子は、真剣な眼差しを神木公平へと向ける。
「分かった…瞳子を信じる」
そのあまりの真っ直ぐさに、神木公平は息を飲んでゆっくりと頷いた。
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「始めっ!」
ザイードの掛け声とともに、ハルベルトが30センチメートル程の銀の魔法杖を頭上に振り上げた。同時に1メートルはありそうな巨大な火球が創りだされ、更にその大きさを増していく。
「…そこまでしよるかっ⁉︎」
ハルベルトのこの行動に、ザイードは大きく目を見開いた。いきなりのこんな大魔法…開始の前から魔力を錬成していたに違いない。
神木公平たちも、半ば呆然とその火球を見上げていた。だがその隙をついて、ハイスとロートが猛然と襲いかかる。
「さあ、そこの貴女っ! こうなったからには私たちと一緒に、あの方の衝動を全て、この身で受け止めましょう!」
ハイスは佐敷瞳子へと弓矢の如く一直線に向かいながら、ドレスアーマーの腰に差している銀のレイピアをスラリと抜き放った。
しかし佐敷瞳子は、逆にゆったりと感じる程の
「その様な玩具で、馬鹿にしているのかしら?」
撃ち出されたバレーボール大の水の泡を、ハイスは嘲笑いながらレイピアで刺し貫いた。しかしそれと同時に水の泡が爆散し、激しい衝撃がレイピア越しに伝わってくる。
「きゃあっ⁉︎」
その予想外の事態に、ハイスは思わず全身を強張らせた。次の瞬間、彼女の目の前で佐敷瞳子の身体が、まるで蜃気楼のように消え去っていった。
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