第20話

「ステータスが低いと聞いてたけど、なかなかどーして戦えるじゃないかいっ!」


 メイが驚きで目を見張る。しかし当の神木公平自身も驚いたように、両手にある感応金属オリハルコン製の籠手を見つめていた。


 そのとき「キキーーッ」と大きな鳴き声が響き、枝葉の鳴る音が遠のいていく。


「どうやら逃げたようだね」


 辺りの様子を伺っていたメイが、「ふー」と大きく息を吐き出した。


「毛針猿の体毛は、針のように硬くて鋭いんだ。不用意に触れると手がボロボロになってた筈さ。それを選んでくれたトーコに感謝するんだね」


「そう…ですね」


 メイの言葉に神木公平は、籠手を見つめながら若干うわの空に頷く。


 信じられないくらいに、身体が軽く動いた…


 どうやらこの籠手には、何らかのステータス上昇系の能力が付加されているのかもしれない。そして佐敷瞳子は、その能力を見抜いていたのだろう。


「瞳子、コレありがとな」


 姿が見えないので、呟くように感謝の意を伝えた。


「う、うん。役に立ったのなら、スゴく…嬉しい」


 ヘッドホンから聞こえる佐敷瞳子の声に、神木公平は思わず苦笑いをしてしまう。


 彼の黒い双眸には、まるで俯き加減でモジモジする、佐敷瞳子の姿が見えるようであった。


   ~~~


 それなりの素材になるとかで、毛針猿の体毛を剥ぎ取っておく。


 それから3人は森の中を暫く進み、やがて木々の開けた場所に出た。久しぶりの太陽光に、何だか気持ちがホッとする。


 そこは地盤の隆起でもあったのか、旧い断層が壁のようにあらわになっていた。


「もしかして、化石とか探しに来たんですか?」


 神木公平の瞳が、男のロマンにキラリと輝く。


「そんなのは、とっくの昔に調べ尽くされてるよ」


「で…ですよね」


 しかしメイのそのひと言に、神木公平はシュンと肩を落とした。


「ここには研磨材を取りに来たんだ。ここの砂は粒が細かくてね、磨くのに丁度いいんだよ」


「あー、そういえば…」


 その言葉を聞いて、神木公平が浮かんだ疑問を口にする。


「メイさんは普段、何をされてるんですか?」


「再生屋だって言ったろ?」


 メイは、腰に両手を当ててニッと笑った。


「客から不要品を買い取って、手直ししてからまた売るんだ」


「ああ、リサイクルショップですか」


「リサ…? まあ理解出来たのならそれで良いさ」


 そのとき、二人の会話を眺めていた佐敷瞳子の視界左端に、黄色いタグがピンと跳ねた。反射的に左を振り向く。しかしタグは左端から動かず、それを追いかけるように後ろにまで振り返った。


 森の暗がりのその奥に、黄色いタグが3個表示される。


「公平くん…後ろっ」


 ヘッドホンから届いた佐敷瞳子の声に、神木公平は透かさず後ろに振り返った。


「魔獣かい?」


 察したメイも、両手でハンマーをスッと構える。


「鉄牙狼ってのが3体らしいです」


「またトーコかい? 全くとんだ拾い物だよっ」


 そう言ってメイは、愉しそうに口の端っこで微笑んだ。

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