第5話

「つまり此方の条件は、4本のくさびの破壊です」


 ユミルの話を引き継いで、ミサが最後にそう締めくくった。


「えーちょっと待ってー。それだと凄く時間がかかる気がするんだけどー?」


 そのとき話を聞き終えた少女が、若干怪訝な瞳でミサを見つめる。


「だよなー、いくら還れると言っても、浦島太郎になるのはちょっとなー…」


「それは心配ありません」


 茶髪少年の言葉を受けて、ミサが笑顔でパンと両手を叩いた。


「あなた方が還るのは召喚された直後です。その間の肉体的な成長は凍結され、その際の余剰エネルギーは全てステータスのアップに消費されます」


「ステータスっ!」


 ミサの放ったその言葉に、茶髪少年の瞳がランランと輝く。


「はい、召喚札ガチャチケットで呼ばれた召喚者たちの身体能力が高いのには、そういう秘密があるのです」


「どーやってそれを確認するんだ? ウインドウが開くのか?」


「ウイン…ドウ?」


 食いつく茶髪少年に、ユミルが小首を傾げた。


「専用の装置があるのです。いつでも自分や相手の能力が分かるような事は、普通はありませんよ」


 ミサが優しく微笑みながら、チラリとユミルに目線を向ける。


 ユミルはコクリと頷くと、正面の壁にある大きな黒板のような物の前に立った。それから黒板の右下隅にある、半球上の水晶玉にそっと触れる。すると黒板がパァーッと淡く輝き、光の文字が現れた。


 ユミル

 タイリョク:1800

 マリョク :2000

 チカラ  :1200

 スバヤサ :1500

 ユニークスキル:モリノシュゴシャ


「よく分かんねーけど、ちゃんと読めるー!」


 茶髪少年が「うおお」と吠えた。


 そのとき全員がハタと気付く。


「そういえば、会話も成立してるな」


 詰襟少年が右手の中指で、眼鏡をクイッと持ち上げた。


「そこは鉄板ってことなんでしょうね」


 神木公平も苦笑いを浮かべる。


「その通りです。召喚時に言語の理解は全員に付与されています」


 ミサは神木公平を肯定すると、全員の顔をクルリと見回した。


「さあ、それではお待ちかね、次は皆さんの番ですよ」


「よっしゃーっ! 最初はオレから行くぜ。別にいいよな? な?」


 茶髪少年が我先にと名乗り上げ、他のメンバーにお伺いをたてる。特に異論はなかったので、全員はゆっくりと頷いた。


 するとユミルが、促すように水晶玉の前からスッと退く。茶髪少年は水晶玉の前で一度大きく深呼吸をすると、勢いよく右手を振り上げた。


「とくと見よ、オレさまのチート能力をっ!」


 水晶玉を鷲掴みにするようにガッと触れる。その瞬間、黒板から淡い光が放たれた。


 シライシカズマ

 タイリョク:800

 マリョク :500

 チカラ  :500

 スバヤサ :400

 ユニークスキル:チユノココロエ


「あ、あれー、なんかビミョー…」


 白石和真しらいしかずまは、肩透かしを喰らったように呆然と呟いた。

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