第4話

「さて、皆さんご納得いただけたと言う事で、これから本題に入らせていただきます」


 ミサが満面の笑顔で頷くと、再び純白の杖をコツンと突いた。


「まず初めに、今回の召喚は契約召喚です。コチラの契約を履行していただくと、自動的に元の世界に還ることが出来ます」


「還れる…」


 詰襟少年がミサの言葉を反芻する。


「だけどそれを、オレたちがわざわざ受ける義理はなくね?」


 続けて茶髪少年が頭の後ろで両手を組みながら、呟くように言葉を発した。


「それはそうなのですが、次元の女神が言うには、この召喚に応じた者は、少なからず願望のある方たちなので『断らないって』とのコトです」


 ニッコリ笑ってミサが返す。


「アハッ、これ女神って人の方が一枚上手だねー」


「ったく、お約束もやらせてくんねーのかよ」


 少女と茶髪少年が、声をたてて揃って笑う。


「あなたも、良いんですか?」


 そのとき神木公平が詰襟少年に顔を向けた。


「まあ問題ない。どのみち受けないと還れないんだからな」


「それは…そうですが」


 神木公平が複雑そうな表情をする。するとそれに気付いた少女が、上半身を傾けて神木公平を下から覗き込んだ。緩ふわパーマの茶髪がサラリと揺れる。


「あれー? コーくんは嫌だったー?」


(コーくんっ⁉︎)


 その瞬間、佐敷瞳子の脳裏をバチンと稲妻が駆け巡った。


「え…っ、コーくんって俺?」


 上目遣いの少女に見つめられ、神木公平の頬が真っ赤に上気する。


「あ、いや、俺ってより瞳子が…」


「私も…大丈夫」


 佐敷瞳子がなけなしの勇気で、神木公平と少女の間に身体を割り込ませた。


「アハッ、じゃ、皆んなオッケーだねー」


 少女は興味深そうに佐敷瞳子を見つめると、身体を起こして微笑んだ。


「その様ですね、助かります」


 そう言ってミサは、ペコリと頭を下げた。


   ~~~


「では、ここからは私が」


 ユミルがズイッと一歩進み出る。


「事の起こりは100年ほど前…」


 事の起こりは100年ほど前、大陸の辺境にあった小さなエルフの国で異変が起きた。


 土地のエルフに敬われていた霊峰に、突然巨大な闇のくさびが撃ち込まれた。


 地脈が汚染されて土地は枯れ、やがて魔境と化した霊峰から魔物が溢れ出した。


 元々数の少なかったエルフの民は、防衛すら困難になり、とうとう国を諦めた。


 それから十数年、何とか隣国の軍隊と協力して国境の防衛には成功していたものの、とうとう2本目の楔が、その隣国に撃ち込まれた。


 同様にパワースポットを汚され土地は枯れ、国の維持が不可能になった。


 それから何十年、大陸に4つあった国はアーバイン王国を残して全て滅びた。


 地脈に干渉する魔法が開発され、何とか楔の進行を遅らせていたのだが、とうとう4本目の楔がアーバイン王国に撃ち込まれ、国土の半分が死滅した。


 残るは「水晶湖」と呼ばれる湖のみ。ここを奪われると世界は滅ぶ。


 以前よりこの世界に派遣されていたミサは、最後の手段として次元の女神に助力を乞うたのだった。

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