第3話

 カチリという鍵の音が室内に響く。するとその扉から、肩の開いたメイド服を着た、ひとりの少女が姿を現した。


 見た目は小学生くらいだが、お胸には豊満な双丘が激しく自己主張している。大きくクリッとした目に紅い瞳、桃色の頭髪は三つ編みの両おさげに結われており、肩から胸の上にまで届いていた。


 少女は教室でいうところの教壇のような場所に立つと、先端に青い水晶が輝いている、自身の身長を超えるほどの真っ白な杖をコツンと突いた。


「私はミサと申します。この世界で使徒として修業を行っている者です」


「使徒…?」


 ミサの自己紹介に、詰襟少年がオウムのように繰り返す。


「ああ、すみません。使徒とは、女神になるための修業をしている者です」


「女神っっ⁉︎」


 今度は茶髪少年が、口をあんぐりと開いて声を張り上げた。


「じゃーまさか、ココってもしかして異世界ー⁉︎」


 少女も口元に手を当てながら目を見開く。


「その通りです。次元の女神から頂いた『プレミアム召喚札ガチャチケット』を使って集めさせていただきました」


「いやいや、ちょっと待ってください」


 そのとき神木公平が、とうとう口を挟んだ。


「ああ、そうだな。プレミアムなどと、こんなふざけた話に踊らされてどうする」


 神木公平に続くように詰襟少年も口を開くと、右手の中指でクイッと眼鏡を持ち上げる。


「やっぱりそこが気になります? 普通は10連召喚ですからね。この世界の現状を鑑みて、次元の女神が半数に減らす代わりに高能力アタリが出易いようにしてくれたんです。だから、プレミアム」


「そう言う意味じゃなくてですね…」


 トンチンカンな解答をするミサに対して、神木公平が小さな溜め息を吐く。そのときクイクイと袖口を引っ張られ、神木公平は後ろに振り返った。


「こ…公平くん、あそこ」


 すると佐敷瞳子が俯き加減で、おずおずと開きっぱなしの扉を指差す。その先を追いかけるように、神木公平もゆっくりと顔を向けた。


「ああ、うっかりしてました、すみません」


 その意味に気付いたミサが、パンと両手を叩いて微笑んだ。


「彼女を連れて行けば言葉での説明は不要だと、次元の女神にアドバイスを頂いていたのです」


 そう言ってミサが入り口に向けて手招きをする。


 次の瞬間、ひとりの女性が颯爽と室内に現れた。


 青色の胸甲鎧ブレストアーマーに純白のマント、そして黄緑色の膝丈ワンピースを着けている。輝く金糸のような長い髪を赤いリボンでポニーテールに結い上げ、切れ長の目には碧い瞳、極めつけに先の尖った長い耳。


「私はアーバイン王国、王立騎士団所属のユミルと申します。以後お見知り置きを」


 ユミルはミサの横に姿勢正しく直立すると、その口から凛とした声を響かせた。


「エルフの姫騎士キターーっ‼︎」


 同時に茶髪少年の興奮した大声が、荒い鼻息とともに室内に木霊した。

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