第2話

 佐敷瞳子と神木公平は、訳も分からずただ呆然と立ち尽くしていた。


 どう考えてもここは、さっきまでの場所ではない。出入り口がひとつあるだけの、何もない、教室大くらいの部屋である。


 その中に、自分たち以外にあと3人、同年代の男女が立っていた。


 とりあえず佐敷瞳子は、神木公平を掴んでいた両手を離し、そっと離れることにする。


「あの、ここは…?」


 ようやく我に帰った神木公平が、周りの様子を伺いながら、ゆっくりと口を開いた。


「ゴメンねー、ウチらも来たばっかで何も分かんないんだー」


 肩まである茶髪に緩めのふんわりパーマをかけた少女が、緊張感のない声でゆる~く答える。


 ボタン全開の紺色のブレザー制服に、第二ボタンまで外した白のブラウスから覗くふくよかな谷間。同じく紺色の制服スカートは、太ももの半分くらいの長さしかない。


 自分とは対極に位置するモテオーラを放つこの美少女に、佐敷瞳子は若干の警戒心を抱いた。


「だけど、これってアレだろ?」


 短めの茶髪を無造作ヘアにした少年が、少女の言葉に勝手に続く。


 グレーのブレザー制服に紺色のスラックスを着た、神木公平より少し小柄なその彼が、頭の後ろで両手の指を組みながら「ニッ」と笑った。


「異世界召喚……って、んな訳ねーか」


「その可能性は、否定出来ない」


 そのとき、スクエアタイプの紺縁眼鏡をかけた、目に届きそうな前髪の長い黒髪少年が、やや重苦しい口調でゆっくりと口を開く。


 黒の詰襟学生服を着た、神木公平より少し身長が高いその少年は、右手の中指でクイッと眼鏡の眉間を持ち上げた。


「勿論、何らかの集団催眠という可能性が、一番濃厚だとは思うけど…」


「ステータスもオープンしねーしな」


「あ、分かるー! ウチも一回やってみたー」


 詰襟少年の言葉に、茶髪少年と少女が続く。どうやら少なからず、そういう願望のある者たちが集まっているようだ。


 佐敷瞳子も勿論、現状から連れ出してくれるような夢物語を、何度も夢見たことがある。


「そうですか…オープンしませんか」


 神木公平が、ホッと安心したような…残念なような顔をした。彼も今どきの若者だ。きっとそういう文化を取り入れていたのだろう。


「あれ、お前もいけるクチ?」


「まあ…キライではないです」


 茶髪少年のニヤケ笑いに、神木公平も笑って頷く。


「ねーねー、そっちの彼女はー?」


「え…わ、私…?」


 突然少女に話を振られ、茶色セーラーカラーの亜麻色ワンピース姿の佐敷瞳子は、みるみる身体を縮こませた。


「あの…私も、えっと…」


「何だ、お前の彼女、人見知りか?」


「いや、まだ彼女って訳じゃ…」


 茶髪少年の素朴な質問に、神木公平は慌てて何度も首を横に振った。


「おー、そーだったな」

「そーいえば、告白っポイことしてたよねー」


 二人に話を振り返され、神木公平と佐敷瞳子の顔がみるみる真っ赤に染まっていく。


「そこまでにした方がいい。誰かが近付いてきた」


 そのとき詰襟少年が、緊張した面持ちで、唯一ある部屋の出入り口をジッと見つめていた。

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