第15話 吸血鬼Ch三点盛り

世間の一部が激動の時代の到来を予感していたその頃、クズ四人組の広報担当であるところのショウは、宣伝活動に精を出していた。

先輩美形吸血鬼を伴っての外出では必ず映えスポットに訪れて、声をかけてきた人間と快く写真を撮りまくり、SNSへの投稿を許可し、なんならいくらでも拡散して良いからついでに自分のチャンネルも載せておいてくれと言っておく。

次にテレビで公開撮影をしている場所が近場にあれば、わざとらし過ぎない程度にちらりと映り込み、視聴者に見鬼の才能を発現させていく。

そうやって手当たり次第に自分を世間へ拡散し、知名度を上げていったショウは、そろそろ次の動画を作成することにした。

既に二本のアクション動画があり、特に配信のアーカイブのほうはネットニュースやオカルトサイトにも載りまくって再生数も伸び続けている。

となると、その方面に興味のある人間は、放っておいても見てくれるだろう。

ショウは新規視聴者層を開拓するべく、吸血鬼たちに声をかけて協力を仰いだ。

最初に作ったのは、ヴォルの化粧動画である。

内容はこうだ。


「ハイ。ヴォルカンよ。今日は頼まれたから化粧動画を撮ることになったわ。

見てわかる通りアタシはこうして画面にアップになってもアラが一つもない最高峰の美女なの。すっぴんでこれよ。もう既に完璧だわ。

どこのブランドの基礎化粧品がどうだの、手入れ方法がどうだの、そういうことは一切アタシには関係ないってことをまずは理解して。天から与えられたこの美貌を心に刻みつけ、崇拝すればいい。それだけのことよ。簡単でしょう。

だからこの動画は、どううまく化粧をすれば良いのかっていう勉強をしたい人間向けじゃないわね。

これはアタシの美しい顔をしっかり映して、より美しく化粧をしていくだけの動画よ。それが見たい奴だけ再生を続けなさい。わかったわね?

これだけ言ってまだ見てるなら、画面の前のアンタはアタシのことが好きな人間なんでしょう。良い子ね。見る目があるじゃないの。

それじゃあやっていくわ」


この調子で女王様じみた美貌の吸血鬼がメイクアップをして豪奢な衣装を身に着け、ついでにショウもメイクをしてもらって、美しい吸血鬼の館の中で二人でポーズを取るという動画を作成したのだが、これが予想以上に色々な意味で受けた。

人並外れた美しさというものは、それだけで強烈な求心力のあるコンテンツなのだ。

次にショウはメルに土下座して追加で10万のツケをし、ヘアスタイリングの動画を上げた。


「いまからカンペ読みます。

メルです。今日は土下座で頼み込まれたから動画を取りながらスタイリングをやっていきます。モデルはショウ。よろしくね。

なあ読むの飽きたんだけど自由に喋って良い? いいだろべつに。

まず髪の色を赤にします。こう。はい赤くなりました。それで短髪にしてみる。こうやってぴってやるとなるんだけれど。

コイツ赤毛も短髪あんまり似合わなくない? は? 顔を髪に合わせろよ。

何なら似合うんだお前は。わかんないわ。いいじゃん髪のセットなんて適当で。

じゃあ次銀髪。はいパッってやると色変わるから。それで次は伸ばしてくね。こうサラサラ~ってやってさ、伸びるじゃん。直毛も良いけどちょっとハネさせたりウェーブさせるのも良いよね。しらんけど」


という調子のクソ適当スタイリング講座は、ショウの予定と違って、ダウナー系美形お兄さんの手品動画として人気を博した。

謎の光エフェクトと共に髪の色が付け根までしっかり染まり、メルの手の動きに合わせて髪が伸びたり縮んだりハネたりサラサラになったりと自由自在に変化していくさまは、言われてみれば新手の手品じみていた。

三本目はグロームと作ったものだ。

二人は自分たちのゲーム練習の様子を編集して5分程度の実況動画にし、ゲーム画面の上、左右それぞれに顔を映したワイプも載せて投稿した。

当然のことながら吸血鬼どものゲームなどというものは暴言が飛び交うので、これに関してだけ編集に手間がかかっている。


「ハイこんばんはショウです~」

「グロームだ」

「じゃあ今日はス○ブラをやっていくんですけどね、俺がスネ○クでグロームがスティ○ブです。こいついっつもこれ使ってんな」

「うるせえお前も毎回同じだろうが」

「まあ早速やってきますわ。はい開始。即ぶっ殺すわ今後一秒たりとも呼吸させねえからな。人生最後の空気の味を今のうちに味わっとけよオイ」

「あ? ふざけんなボケクソぬるいんだよ深呼吸するヒマすらあるわ。なんだったらこのままラジオ体操第一始めんぞコラ」

「は? やってみろよテメエ体を前後に曲げる運動からシームレスに土下座に移行させてやるわ。全世界に自分の頭がどれだけ床にめり込むかお知らせしろ万年二位野郎がよぉ!」

「んだとオイクソ白髪ぶっ殺すぞ童貞野郎!!!!!」

「童貞いま関係ね~~~~だろうが!! 俺はモテないんじゃなくて清らかな美青年なんだよぶっ殺すぞ!!!!!!!」


こんな調子が終始続くだけの動画だ。ちなみに吸血鬼に呼吸は本来必要ない。

ゲーム内容というより、白髪赤目の美青年と金髪ワイルドイケメンが暴言をぶつけ合い続けるさまが純粋に馬鹿だと評価され、この動画も伸びた。

こうして顔の良さによって世間様から甘やかされている健康優良バカ吸血鬼Chは、再生数とチャンネル登録者数を順調に増やしていったのだ。

撒き餌によってしっかり自分達に注目が集まり、次は何を出してくるのかと期待されているのを確認して、ショウは満を持してSNSで二回目の配信の予定を告知した。

題名は、「吸血鬼による地球の歩き方講座」

内容は見鬼の才能に目覚めた人間向けの、オカルト的観点からのライフハックだ。


これを行うにあたって、ショウは雨水に協力を頼むことにした。

なにせショウは吸血鬼になりたての、元健康優良バカ男子高校生。この手のことに対する知識がまるでないのだ。

とはいえ、表向きはまだ協力者だということを隠している雨水が、そのまま配信に顔を出すわけにもいかない。

そこで考案されたのが、雨水の代わりに動いて喋る、代理マスコットキャラの作成である。

ショウはこれについて雨水にひとつ注文をした。


「出来るだけ可愛い系で、かつちょっと神秘的なファンタジー要素も取り入れて、広めの世代にウケるようにしてほしいんすよ」

「ほう、まあ問題ありませんよ。私は優秀ですから。丁度よいあんばいの式神を作って差し上げましょう」

「あ、そうそう、その式神っぽい要素? 和風テイスト? みたいなもんも入れてキャラデザして欲しいんすわ」

「ほう?」

「いやあ、とーじ叔父さんに聞いたんすけど、俺が生まれるより前くらいに、陰陽師ブームってやつがあったらしいじゃないすか」

「ああ、ありましたねえ。陰陽師を題材にした漫画やら小説やらが流行った時期」

「でしょ。そのへんのブームのときドハマりしてた人達向けに、ロマンを感じる要素を仕込んでおきたいんだよね。

俺はやっぱりこう、見える人になったことの面白さを、もっといろいろな人に感じてほしいって思ってるもんでして」

「わかりますよ。幽霊や化物などに対して感じる恐怖以上に、もっとこう、日常の中に混じる神秘に対して面白味や喜びを感じてほしいというか……。

見えることによる実利がある、と思っていただけたほうが、この状況を人々に受け入れてもらえるでしょうしね」

「ねー。ある日突然不思議な力に目覚めましたとか、勉強したら不思議な力を使えるようになりました、みたいな夢が見れるほうがね。だから陰陽師っていう、既存の技術の要素って、効くと思うんすよ。

見えるだけじゃ、みんないつかこの日常に慣れちゃうだけなんで、もっと成長していく余地が欲しいっていうか」

「いいですね。まあ学生さんや一部オタクの方々は、既に自己流の能力開発などに奔走していそうな気はしますが」

「1000割やってるわ」


二人が話す通り、オカルトサイトでは既にいかにして超能力や魔法のような力を使うか、というような話題で盛り上がっている人間が大勢いた。

なにせショウが公開した動画内でもヴォルやグロームが特殊能力を使っているため、こういったものに対する憧れが、厨二病とひとくくりには出来ないほど大きなムーブメントとして生まれていたのである。

つまり黒歴史を量産している人々が大勢いるということでもあるのだが、そこはまあ自己責任というものだろう。人間は恥をかいて大人になっていくのだ。

配信日当日に届けられた式神は、水干を着た、キラキラと光を纏ったウサギのぬいぐるみのような姿をしており、なぜか異様に渋格好良い男性の声をしていた。

はじめて見た自立行動をする高性能な式神に、ショウは目をキラキラさせながら挨拶をする。


「どうもー! 今回はよろしくお願いします。ショウです」

「よろしく。オレの名前はタピオカ丸だ」

「……、あ……、そ、ッスか……」


ロマンの欠片もない名前を聞き、ショウの目が瞬く間に濁った。

流行りに媚びつつ2秒で考えたような名前がついた式神、という存在に、いったい自分はどう向き合えばいいのか。

悩むショウに、タピオカ丸はニヒルな仕草で肩をすくめる。


「大丈夫だ、仮名だから。気を使うな。本名は他にあるのだが、不特定多数に教えるのもどうかということで、このふざけた名前を一時的に名乗ることになったのだ」

「ア良かった。は~~~~ビビッたわ……。俺もうなんて声を掛けたら良いもんかとマジで悩んだもん。やべえってタピオカ丸は……」

「オレもさすがに正気を疑ったが、まあ呼び難ければタカ丸とでも略すと良いんじゃないか」

「生みの親よりまともなセンスしてんなあ……。信頼できるわ……」


物怖じしないショウと寛容なタカ丸の二人は案外良い組み合わせだったようで、顔合わせと打ち合わせは滞りなく進み、第二回配信の準備は着々と整っていった。

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