第31話 17日目:なんかいつの間にか外堀埋まってる①
昨日の誘拐事件の事後処理を終えた俺は、日付が変わってからようやく眠ることができた。
ルミナスの告白に関しては……ダメだ、考えられない……。とりあえず保留にして放心状態のまま帰ったんだけど……。
寝られないかなぁ、と思ったけど、疲れた体は正直なようであっさりと夢の世界へと旅立った。
そんなこんなで朝。というか昼。
色々あったし、しばらく魔法の修行は見送ろうということになったのだが、ルミナスが断固拒否した結果、今日のみ休みになった。さすが魔法狂。
というか気になるのが、カマエル王が昨日、やけにニヤニヤした顔で俺を見てたんだよな。なんか企んでる顔だったけど、さすがに娘が誘拐にあった後で変なことはしないだろう。……多分。
ベッドから体を起こし、そのまま顔を洗いに行く。
さすが王宮というか、この王都自体かなり上下水道の整備が進んでいる。水は清潔だしな。……まあ、ヤマトほどではないけど。あそこは、世界一治安が良くて清潔な国だからねぇ……。最初こっちに来た時は、あまりの違いに少し戸惑った記憶もあるが数年したら気にならなくなった。慣れってすごい。
椅子に腰かけて一息着くと、コンコンコンと整ったノック音が聞こえてきた。
「はーい」
「お目覚めでしょうか。良ろしければお食事を配膳致しましょうか?」
「あ、よろしく。あと新聞持ってきてくれ」
「かしこまりました」
侍女がやってきた。お目覚めでしょうか、と聞いたということは、朝に一回来てるのか。
ドア越しにそんなやり取りを交わして、ふぅ……と息を吐くと、くぅとお腹が存外可愛らしげな音を鳴らした。
昨日は食事ができないほど疲れていたから、その反動が来たらしい。
体の疲れはそこまででもないか、如何せん精神的な疲れが酷い。未だにクレムは眠っている状態だし心配事は尽きない。
一番悩ませてる原因は勿論、ルミナスの告白なのだが、永遠に解けない問題を叩きつけられた気分だ。
そもそも、俺が交際をして良いものか。
『魔剣士』が所属している団体は存在しないが、管理というかお小言を言ってくる偉い人が、ヤマトにいる。
そいつ曰く、世界の象徴なんだから、問題事は起こさずに慎ましく過ごせ、だとか、女性関係のスキャンダルは揉み消すの大変だから止めてくれ、だとか。
正式に結婚するなら相当地位のある人にしてくれ、とも言われた。
その条件に当て嵌めるならルミナスは問題ないのだが、俺の気持ちとしてルミナスのことをどう思っているかだ。
難しい話だ。
勿論、浮世離れしたルミナスの美貌には目を引かれることもあるし、性格的にも魔法狂なことを抜かせば非常に好ましい。
だが、ルミナスは生徒だ。教え子だ。
なのに、先生である俺がやましい気持ちを抱えて良いのだろうかと、倫理的な部分が問題提起する。
「ままならないもんだねぇ……」
頭を抱えこんでため息を吐くと、再びコンコンコンとノック音が響いた。
返事をすると、失礼します、と侍女が食事と新聞を持ってやってきた。
「お食事をお持ち致しました。……あの、それとおめでとうございます!」
「ほぇ?」
いつもの事務的な笑みではない。
瞳をキラキラ輝かせて、お祝いの言葉を申した侍女に、俺は呆けるが、そんな俺に気が付かずに侍女は華麗に一礼して出ていった。
「おめでとうございます、って何が?」
お疲れさまでしたとかなら、まだ分かる。侍女が言うのがおかしいかもしれんが。何せ昨日のことは国中に広まっていた。
確かにこっちの国の城でも騒ぎになっていたし、口の軽い騎士たちがバラしたのだろう。大丈夫か、情報統制。
まぁカマエル王が何とかするでしょ。仮にも王なんだから。
「いただきまーす」
考え事は食事の後にしようと、豪勢な料理の数々を口に運んでいく。
うむうむ、ヤマトの高級料亭の板前さんが作った、御膳より劣るが美味しい。比較対象がおかしいって? いやいや、そこを比較に上げるくらい、この料理も美味しいんだよ。
意外に食通な俺は味にうるさい。これも、先生に料理を作らされた弊害かもしれん。あの人も味にはうるさかったし。
「けぷっ」
かなりの量があった料理は全て俺の胃の中だ。ふっ、舐めるなよ、食事量だって『魔剣士』並みだぜ!! 何も誇れないが。
南方から仕入れたコーヒーと呼ばれる飲み物を淹れて、優雅に新聞を広げる。
静かにコーヒーを口に含み、新聞の内容に目を移した瞬間……含んでいたコーヒーを口から噴き出していた。
「ぶっっっ!!!! けほけほけほッッ!!!!! んぐっ、うげっ」
気管支に入り大きく噎せる。
な、なんだこれは……。
きっと何かの間違いだろうと何度も目をゴシゴシと擦るが、何度見てもそこに印刷されている文字は変わらなかった。
信じたくない一心で、きちんと見出しだけではなく記事の内容にも目を移す。
「な、なんだと……っっ!?」
書かれていた内容は正直見出しよりも酷かった。あー、嫌だ嫌だ、これだからマスメディアはさァ……
「ぶっッッッッ!!!!!」
心を落ち着かせるために再びコーヒーを口に含み、記事の最後の文を読んだ時、俺は再び噴き出していた。
「『クリーン』」
床に飛び散ったコーヒーの汚れを落とし、大きく深呼吸をする。
そして、最後に大きく息を吸って……
「なんじゃこりゃああああああああああああああ!!!!!!!!」
全力で叫んだ。
『魔剣士殿とルミナス第一王女が婚約!!!』
『歴代最強の魔剣士として知られる魔剣士殿と、笑うことのできない呪いをかけられたルミナス第一王女が婚約したとの情報が先程伝えられました。魔剣士殿が第一王女の呪いを解いたことが婚約を決めた一手となったそうです。
~~~~~~~中略~~~~~~~
なお、これらの一件はカマエル・フォン・リング王により真実だと語られています』
『写真添付』※城門前で魔剣士殿と第一王女様が手を繋いでいる瞬間。王女様は幸せそうに笑っている。
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印刷は魔法で行っています。
撮影も魔法で行っています。
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