第32話 17日目:なんかいつの間にか外堀埋まってる②
「ナニコレ。ちょ、待って本当にナニコレ」
つまり、これは熱愛報道というやつである。
うん、でも、
「婚約ってナニ?」
した覚えがないんだけど。え、これ、新手の詐欺か何かですか? 捻り潰しますよ?
俺の記憶には婚約の『こ』の字もない。悪戯の線も疑ったが、あの侍女さんには不審な点などなかったし、そんなことをする人とも思えない。
つまり、国民にはルミナスとの婚約が伝わってると。してないけどさ。
いや、本当にどゆことよ。
「つか、王。貴様。何認めてんねん」
カマエル王は、報道云々に関しては寛容なところがある。
取材を受けることも多々あるし、コメントしてることに関しては何もないんだけど、問題は何認めてんねん、ってことよ。というか、俺的には婚約(嘘)の情報流したの王じゃね? とも思ってる。
でも、めっちゃ娘溺愛してるし、それが婚約とか許可するか? 普通。あり得なくね。だとしても、俺の権力を狙って……とかも王の性格的に考え難い。目的が不透明だ。誰か説明求。
「聞くしかないか……」
ルミナスはこの事を知っているのだろうか。積極的に外の情報を取り入れるタイプには見えないし、幾らルミナスでも婚約は重いと思うんじゃないか? ……いや、でも王族間の恋愛って、基本付き合うとか恋人関係すっ飛ばして、即結婚だもんな。
だとすれば、ルミナスの告白も結婚してくださいと捉えても良いのかもしれんが、好きですと伝えられただけだからな。気持ちを伝えたいだけかもしれないし、そこは本人に聞くしかないけど聞けるわけねぇだろ、って話。
そんなわけで、急いで寝間着から着替えて俺はカマエル王の執務室に出向く。一回しばかせて欲しい。
あっという間に執務室に着いた俺は、コンコンコンとノックをすると、
「そろそろ来る頃かと思ったよ」
とやけに重圧感の感じる声が響いた。おいこら、ノリノリだなお前。
最早心にあった王への敬意もすっ飛んだよ。
扉を開けると、腹立つ顔が視界に映る。……こいつ!! めちゃくちゃにやけてやがる!!
おちょくる気満々じゃねぇか、それでも王かお前は。
「新聞見たんだけど、どういうことかなぁ?」
「ふっ、そこまで怒らなくても良いじゃないか。確かに婚約は時期尚早だったかもしれないけどね」
睨み付けるが、飄々とかわされる。随分と余裕があるようで。
「時期尚早っつか、話が見えてこないわ」
「いや、なに。君とルミナスが好き合ってるのは知ってるよ。だから、手助けしてあげたんじゃないか」
「はぁ? ってか、なんでそのこと知ってるの、そういえば」
驚き過ぎて忘れてたけど、あの場には俺たちしかいなかったはずだ。クレムも意識を失っていたし、皇帝と宰相が例え聞いていたとしてもそれが王にバレるのはわけわからんし。
すると、王はおや? と不思議げな表情をした。
「だって、わざわざ好き合ってるのを伝えるために、風魔法の『伝達』を繋げ続けていたんでしょ?」
「…………あ」
わ、わ、わ、忘れてたッッ!!!!!
そうだ。王に詳しく現場の状況を知ってもらう為に、『伝達』を繋げっぱなしにしていたんだった!!!!!
しかも、王の声を聞こえないように設定していたから尚更分かんなかった。
え、てことは王は全部聞いてんの? ルミナスが言ったこと全部。え、それルミナスの精神状態大丈夫か? 親に告白シーン見られるのって相当キツくない? いや、まぁ、俺のミスなんですけどねっっ!!!! 本当にごめんなさい!!! 靴までなら舐めます!!
顔面蒼白とはこの事だろう。完璧に俺のミスである。
眠ったから、もう『伝達』は発動していないが、それまで全部筒抜けだったということだ。
でも、それならおかしい点もある。
「でも、俺って返事してないじゃん。なんで好き合ってる、ってことになってるわけ?」
あ、王がプルプル震え始めた。非常に嫌な予感と悪寒がする。
「君は何を言っているんだ!!!!! 可愛い、可愛い、どこに嫁に出しても恥ずかしくない娘だよ!? 嫁に出したくないけどぉ! そんな、娘が求婚したんだよ?? そんなの断る男がいるはずないじゃないかあああああああああああああああ!!!!!!!!」
「完全に思い込みじゃねぇかあああああああああ!!!!!!!!」
やだ、この王!!!!! 娘の溺愛っぷりが別ベクトルに狂ってる!!!
俺たちは互いに顔を見合わせて睨む。さながら、メスを取り合う雄同士の決闘前のようだ。現実的には何も取り合ってないけど。
「なんだい? つまり、君は娘との婚約を望んでいないと。そう言うのかい? 事と場合によっては、君を社会的に抹殺しないといけなくなる」
「やめて。唯一の俺の弱点で脅すのやめて。権力と情報操作には弱いんだよ!」
「ふむ、じゃあ、娘と結婚することだね。悪いようにはしないさ」
「いや、話が飛躍してるんだよ。そもそも嫁に出したくないって言ってたじゃん」
「君になら良い……わけではないけど、娘が望むなら叶えてあげたい……わけじゃないけどさぁ」
「めちゃくちゃ葛藤してんじゃねぇか!!!」
親の仇のような目で俺を睨みながら葛藤する王に叫ぶ。
畜生、こいつ何言っても無駄だ。娘の言うこと絶対聞くマンになってやがる。
「そもそも、この事ルミナス知ってるわけ?」
「あ、勿論。何せ婚約自体、ルミナスの提案だからね」
「ルミナスぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」
あっさり言いのけた王に、俺はルミナスへの怨嗟を叫ぶ。
何してくれとんねんっ!! え、なに、そんな行動力すごいの、君。
まだ告白してから一晩しか経ってませんが!!??
それに、君、仮にも誘拐されて酷い目にあってますよね? たくましすぎませんかね。
「じゃあ、本格的に君とルミナスの婚約を進めるよ」
「ちょっと待とうか。俺がルミナスを説得する。それまで待て!!」
「もう、無駄だと思うけどね。それに、そんなこと言われて止まる僕じゃない」
「『魔剣士』としての命令だ!!」
「君、権力に弱いとか言っておきながら露骨に権力使ってるじゃん」
呆れた目線を飛ばす王だが、そんなことは俺の耳に入らない。
焦っている。そうこれは焦りだ。取り返しが着かなくなる予感に非常に焦っている。これを何とかせねば、人生の何割かが決まってしまうと言っても過言ではない。
ヤバい、ヤバい。会うの気まずいとか言ってる場合じゃねぇ……そんなこと言ってる間に着々と外堀埋められてるしな……。
「とりあえず待っとけっ!!」
そういえば、なんでこんや奴に今まで敬語使ってたんだろうと、思ってしまう程今の王は残念である。
急いで執務室から飛び出す。
ルミナス……一体何がしたいんだ……っ!
ヨウメイのいなくなった執務室で王はポツリと呟く。
「今のあの子に何言っても無駄だと思うけどね……。ハァ……親として成長してくれるのは嬉しいけど、少しやり方がえげつないと思うんだ。人のこと言えないけど」
地味に王も引いていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あの時使った『伝達』が伏線だったって気づいた人いますかね?笑
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます