第10話 人との繋がり2

1日以上ずっと寝っぱなしだったからから図書館に来るだけで少し疲れた。佐藤さんに会いたいような、会いたくないような。不思議な感覚。いつもは佐藤さんがカウンターにいて欲しいと願ってるのに・・・。

 図書館のカンターを覗くと,佐藤さんがいた。やっぱりちょっとホッとした。

「すいません。返却期限を過ぎてしまった本です。」

「チェルさん。こんにちは。」いつもの笑顔だ。

「二日過ぎてますね。困りますねぁ。」とこれまた笑顔で本を受け取ってくれた。

「すいません。」

「チェルさんは。少し痩せましたか。」

「少し心の運動をしすぎたみたいで.やり過ぎはダメですね。」

「そういうときは心大きくするようなストレッチをすると気持ちが良くなる。」

「たしかに。そうしてみます。」ふとフラッシュバックのように一昨日のことを思い出した。何も考えられずに後ろの書架を眺めていると、

「この図書館に本は何冊あるか考えたことはある?」ふっと我に返って

「言われてみれば何冊あるのか考えたことないかも。」

「じゃあ大体でいいから何冊あるか考えてみて。」

「3万冊くらいからなぁ」

「だいたい15万冊だよ。」

「えっ15万冊もあるんですか?」

「外に出してない本もあるから,分からないかもしれないけどこの建物のなかにはそれくらい本があるんだ。」

「じゃあそんなにいっぱいの本が必要だと思う。」

「思います。絶対!だって誰がどんな本を読みたいか分からないし、分からないこともたくさんあれば調べれれるし。」

「その通り10年間一度も借りられたことのない本もたくさんある。でも図書館にはたくさんの本が必要なんだ。今必要ないような本もも誰かの役に立つのを待ってるんだ。人間も同じだと思ってる。今は誰からも必要とされてないかもしれないけど、必要とされる日はきっと来る。だから人間はこんなにたくさいんるんだ。人は人がいなければ生きていけない生き物なんだ。」

「もう少し自分を大切にしたいと思います。」ここ1週間を思い出してつくづくと思った。

「それより君はちゃんと食事をした方がいい。君が君らしく生きるためにね。」

「私もそう思ってます。佐藤さんに会ってお腹がすきました。ちなみにお薦めの食事はありますか。」

「駅前の中華料理屋のチャーハン。」

「いつものやつですね?」

「おいいしいだけじゃなく安くて、元気が出る。今日の君にぴったりだ。ただ自分が好きなだけだけどね。威張って紹介するほどでもないか。」照れ笑いを浮かべた。

「駅前店に寄って食べて帰ります。」


 いつも佐藤さんと入る駅前の中華料理屋さん。夜のサラリーマンがお酒を飲んだり、私くらいの男子が黙々と食べてすぐに出てく。それと違って昼間の中華料理屋はほのぼのしている。近所のおじさん、おばさん。子どもを連れたお母さんたち。病院帰りかもしれない元気なお年寄り、みんなおしゃべりの中に笑い声も聞こえくる。暖簾を潜るときはちょっとためらったけど、中の笑い声が聞こえてきてほっとした。中を覗いていると元気のいいおばちゃんの声で「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」と迷う暇もなく席に案内してくれた。ありがたかった。13時を過ぎたくらいだから人は半分くらいでも,店の中はどこかしこと良い香りが漂ってくる。ホント久しぶりにお腹がすいてきた。「何にしますか。」と聞きながらお水を置いてくれた。

「チャーハンをください。」

 夜来たときよりも何故かおいしそうな匂いがしてくる。

 この1週間でいろんなことがありすぎた。そんなにいろんなことはなくていい。ここにいる人たちと同じようにお昼に食事をして、働いて家に帰って家族と話しをする。それだけで十分だ。お腹が「グー 」とまた鳴った。その音も心地良い。おばちゃんが

「はいお待ちどうさま。」とチャーハンとスープをテーブルに置いた。

 実は何回も来ているがチャーハンを食べるのは初めだった。いつも私はは五目かた焼きそば。佐藤さんがチャーハン。私たちの中では鉄板の組み合わせだ。そしていつも佐藤さんは同じ話をする「同じものを食べると失敗がないからストレスがなくていい。」

 私はあんまり賛成ができないけど、確かに同じもの選ぶと安心感がある。だから初めてのチャーハンはちょっと心配だ。

 鼻に抜ける香ばしい香りが食欲を刺激した。パラパラとした食感、卵のふんわり感、味覚、嗅覚を刺激する幸福感は、佐藤さんの気持ちと同じにしてくれた。こんなにおいしいものがあるのかと思った。そしてこのちょっとしょっぱい味が体に染み渡った。きっと涙を流しすぎたから塩分が必要なんだ。

今日から心のストレッチをしよう.私の体が塩分を欲しているように、乾いた心に水をあげよう。

今度来たときには佐藤さんとチャーハンを食べようと思う。そして「おいしかったね」と言って帰ろう。これまでも、これからも佐藤さんとは一緒にご飯食べて、駅まで歩いて,そして電車に乗る時は手を振って帰ろう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る