第5話 母との別れ
家の前のドアの前に立つと明かりがついている.珍しく妹がいるのかもしれない。
学校から連絡もきてたし、ゆっくり話しをしないといけないと思った。
ドアを開けると
「ママどうしたの急に。」ママがスマホをいじってる。家にいるのは何ヶ月ぶりだろうか。
「昨日までベトナムに行ってて今日は隔離期間とか言われたから一日だけ帰ってきたの。」
「今海外は大丈夫なの?」
「もうワクチンは打ってるし、ベトナムは日本よりも感染が少ないっているから心配しなくても大丈夫。」
「隔離期間はずっと家にいるの?」
「とりあえず自宅場所を書くことになったからここにしたけど、明日からまた会社で寝泊まりするつもり。これ、麗と香にベトナムのお土産。」
「ありがとう。」
どこにでも売ってそうな、「はい南の国に行ってきました」的なカラフルなパッケージに入ったドライフルーツのお菓子。それでも母が私たちのことを覚えてくれてたのはちょっとうれしかった。
「麗は元気にしてたの?」母は心配してくれてるのか。興味本位で聞いているのか分からない。
「もうすぐ国家試験だから勉強頑張ってる。落ちたら行くとこないし。」
「麗は心配してないけど,香はどうなの?なんだか日本に帰ってきたら学校から留守番電話に学校に来てくれって言ってたけど。」
「家の留守電にも学校に来て欲しいと連絡があった。香に聞いてみたら、学校辞めるらしい。あんまり学校にも行っていないらしくて,今の成績だと卒業も無理みたい。」
「辞めた後何するって言ってるの?」自分で聞いたらと思う。
「バイトじゃないかな。卒業しても、卒業しなくてもやることは同じっていってたし。」
「もし時間があったら麗が先生に会いに行ってくれない?もし香が辞めるなら、反対はしないから。きっと麗の方が香も話しやすいと思う」お母さんは変わってない。もっとちゃんと面倒みてと何度も思った。だけど今は相変わらずのお母さんと話していると少し安心する。
妹のことには答えず
「ママの仕事は順調なの?」
「前から同じ、ギリギリやってるくらい。それでも生きていかれてるからいいと思わなくっちゃ。」
「コロナの影響とかはないの?」
「物流が止まって、海外からは仕入れられないし、日本からはものが送れないし、メチャクチャになっちゃった。それでもなんとかしなくちゃ。今回は久しぶりに買い付けに行ったから,明日からは少し仕事になるかもしれない。」
「大変だね。」
「麗はこんな苦労をすることなく堅実に看護士として生活するののかいいと思ってる。国家試験がんばって。」
「ありがとう。頑張る。」
「就職が決まったら寮かなにかに入るの?」
「そうするつもり。だからこの家もあと少し。」
「香はどうするのか聞いてる?」
「学校辞めたら家を出るって言ってた。やってる居酒屋の友達と一緒に住むみたい。」
「そうしたたこの家にも誰もいなくなるのね。みんなの行き先が決まったらこの家を引き払おうかな。お金もかかるし。」
「そうだね。こんな家でも家賃だけじゃなくて、光熱費もあるしね。」
お母さんは家がなくなるってことを何も考えてないかもしれないけど、私はきっと半年後にはお母さんにも妹にも会わなくなると思う。今はそれくらいの人間関係だからだ。でもこの家があれば集まれる場所はあった。それがかすかな繋がり。それがなくなれば一人になる。あと半年で。
家にあるほんの少しのぬくもりさえ,自分の余り楽しくない思いでさえなくなると思うと寂しくない訳がなかった。
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