第4話 静かな場所
メイドカフェもない、パパもからの連絡もいない、家にに早く帰る理由もない。そんな日は必ず図書館に来る。図書館に来始めたのは、パパとママがけんかして別れたときからだから、もう10年以上になる。それは私が私らしく一番落ち着ける場所だと気がついたからだ。本に吸い込まれそうなとても静かな場所もあれば,人間のぬくもりを感じるロビーやカウンターもある。そしてそこにいる人たちはみな穏やかだ。自分はこんな穏やかな所が好きなのに、自分の生活はそれと正反対に向かってる。もしこの場所がなかったら自分は壊れているかもしれない。それほど大切な場所、そしてここにいる時間。
もう小学生の時から何冊の本を読んだのだろう。今好きな作家は三島由紀夫、意味がわらならい小説が多いけど、とても綺麗な文書を読んでいると心にたまったモヤモヤした汚いものが綺麗になっていくような気がする。本当に気のせいだけど。
図書館に来るとまずはここでこの世界の住人になる準備をする。ロビーにある椅子に座り、図書館の空気を大きく吸い込む。今までの生活の空気を全部外に出すように。
ロビーの椅子で周りを見渡していると、
「チェルさん、こんにちは。」図書館の佐藤さんが声をかけてきてくれた。
「久しぶりではないですか?」
「そうなんです。学校が忙しくてあまりり本を読む暇もないんです。でもこの間紹介してくれた宮本輝の『優駿』はとておもしろかったです。」
「それはよかった。動物の話が読みたいっていうんで紹介できてよかった。」
「主人公の馬の名前のオラシオン。良い名前ですね。『祈り』って意味素敵です。」
「風の中を颯爽と走っているのが目に浮かぶ名前だと思う。」
佐藤さんは私が小学生の時からずっとこの図書館にいる司書さんだ。きっと35歳くらいになったんだと思う。すごいカッコいい人ではないけど、ここにいる人だから穏やかに流れる時間を持っている。
佐藤さんは一人で来ている私にいろいろな本を紹介してくれる道先案内人。知らないことはないくらいに質問には何でも答えてくれる。
「また宮本輝を読みたいんだけど,何がいいですが」
「今の君には『星々の悲しみ』がいいと思う」本当にこの人は本が好きなんだなと思うくらいに、いつも私にぴったりな本を紹介してくれる。
「チェルさんはいつもにまして疲れているみたいですね。」
「その通りです。もう生きている心地がしないくらいに疲れてます。」
「あんまり無理をしない方がいいと思う。チェルさんはずっと無理をしてる感じがしてます。」
「ずっと?」
「そうずっと。ずっと前から。」
「今は無理しているかもしてかもしれないけど、そんな前からからなぁ。」
「君は頭もいいし、とても静かな人だ。だからきっと君の生活が落ち着いたら分かるときが来ると思う。」
「『星々の悲しみは』書架にあるから借りていくといいと思う。それじゃ。」
佐藤さんはカウンターに戻って行った。
「昔からそんなに無理してるかなぁ」とつぶやいた。
「それにそんなに静かなのかなぁ、でも佐藤さんが言ってから間違いないと思う.キレやすい穏やかな人。へんななの。笑いながら怒る人と同じくらいの珍しい人種かもしれない。」心の中で苦笑いをした。
見ると鞄の中のスマホが光っている。
「あと少しで閉館だから外で待っててくれる?」佐藤さんからのLINEだった。
「分かりました。出たところで待ってます。」
私はこの場所にいる佐藤さんが大好きだ。だから佐藤さんの言ったことは絶対に間違ってないと信じてる。
そして、きっと静かな自分に穏やかな時間が来ると言い聞かせた。またいつもの生活が始まる。
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