第3話 彼との話

私の彼氏は龍。付き合って分かったんだけど日本生まれ日本育ちの中国人。知り合ったのはバイト先のメイドカフェ。気に入ってくれてよく指名をしてくれる人だ。前の彼氏は生まれて初めて付き合った人、生まれて初めてエッチをした人だ。自衛隊にいてなかなか会えないから会うたびに結婚しよう,結婚しようとばっかり言ってきた。さすがにうんざりして別れた。前の彼も体が大きかったけど、龍も体が大きくてがっしりしている。好みのタイプは大きくて頼れる人かもしれない。(私のお父さんは色が白くてやせっぽち、ギターより重いものを持ったことがないに決まってる。)

 男に期待してるものは何もない。ただ寂しいから、好きと言ってくれるから一緒にいるだけ。頼ればお母さんみたいになるだけだ。自立しないと生きていけない。だから看護師の資格が欲しい.私が看護師に向いてるとは思わない。でもそのときになればきっと看護師としてやっていくことになるだだろう。自分の人生はきっとそうなっているんだだろうと思っている。

「チェル久しぶり。今日はコロナで酒飲めないから家に行こう。」そう言うと大きな手で私の薄茶色の髪をなでた。

 彼はお金持ちだ。持っているものもブランド品ばかり。彼の部屋も一人では大きすぎるようなマンションの一室。そこを自慢するとこともない。いつも親が金持ってるからって言っている。

「龍がいいならどこでもいいよ。」

「実は実家の親が会いたがってるんだ。チェルに。」

みんな私のことを「チェル」って呼ぶ。私が「チェル」って呼んで言うから当たり前だけど、本当の名前は「麗」。自分の名前を「チェル」って言い始めたのは5年生の時。

たまた図書館で見た旧約聖書に出てくる名前「レイチェル」。ヤコブはレイチェルが大好きなのに14年間叔父認めてくれなくて、14年後にやっとレイチェルと結婚できた。ヤコブにとても愛されたレイチェル。そこから自分で付けた名前が「チェル」。お父さんや,お母さんが付けた名前でない、自分の名前「チェル」。中学でも高校でも大学でも私のことはみんなチェル。

「いいけど。結婚はしないよ。学校あるし。」

「そんなの当たり前じゃん。チェルは学生だろまだ。」

「タクシーで行こう。」

「実家はすぐなの?」

「車で30分位じゃないかな。電車は乗り換えるし面倒くさいし。」


大きなタワーマンショの玄関口にタクシーが着いた。

「ここのマンションだよ。」

「タワマンに住んでるの?」

「この最上階だよ。親は店いっぱい持ってから金もあり余ってる。俺もその店を適当に回って挨拶だけして金もらってる。」

 最上階の部屋はホテルのスイートルームみたいだとと思った。入ったことはないけど・・・。大きな窓、海の向こうに富士山が夕焼けに輝いてる。この景色を手に入れるのにいどれくらいのお金を払ったのか想像もつかない。

「親父こっち。増田さんだよ。」龍が声をかけ奥の部屋から小太りで眼光の鋭い中年のおじさんが出てきた。

「増田です。お世話になっています。」彼と会うときは薄いメイクに乃木坂風の清楚系の服。親に会ってもこれなら不快に思われることはないと思う。

「座ってくれ。」

「ありがとうございます。」

「いつも息子が世話になってるね。増田さんにずっと会いたかったんだよ。息子に写真を見せてもらって、とてもかわいい子だったんでねぇ。」

「ありがとうございます。」

「お世辞じゃない。本心だ。息子は見る目があるよ。息子からきいたんだけど君はメイドカフェに勤めてるんだってねぇ。」

「そうです。」

「うちの会社でも似たような店をやってるから,うちの店でやらないか。安い金で遣われてるんだろうから、うちだったらそれなりのお金を払うよ。」

「メイドカフェですか」

「いやキャバだ。」

「私キャバはやったことないし勉強が忙しいんで平日は無理です。」

「土曜日だけでもいいよ。是非うちでもやってくれ。詳しいことは息子から聞いてくれ。

ちょっと出てくるから,後は息子と楽しくやってくれ。夜景を見ながらやるのもいいもんだぞ。」


「俺の部屋行こうか」

「最初から言ってくっれればいいのに。」

「うちの親は人の話を聞かないんだ.いくら言っても無理。」

「やっぱりやれないよ。今のメイドカフェも気に入ってるし。」

「こっちきてごらん。いいもの見せてあげるよ。」

「何?」

そこには綺麗に揃えられた大きな箱に中にナイフが飾ってあった。小さななペティナイフのようなものから、サバイバルナイフの大きく太いものまで。すべの持ち手にきえいな彫刻がしてあった。

「これを見ると落ち着くんだ。」手に取って光にあてたナイフが光を反射する。

「これみんな買ったの?」

「親父がくれたものが半分と自分で買ったものが半分かな。」

 冷たく鋭く光を反射する刃先を見ていると怖くなった。

 彼はそのうちの一本を取りだし私に見せながら

「手を出してみて」と言った。彼は出した手にゆっくり刃物を置いてすっと引いた。同じようにゆっくり血があふれ出した。自分の意思に関係なく冷たく流れ出す血。この血が私の中に流れているんだ。傷口から溢れてくる血を押さえた。


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