第22話 お嬢様のパンツ


「で、できた……!」


 僕は徹夜で、アリシアお嬢様へ納品するパンツを完成させた。

 これは完ぺきなできだといえる。

 まさにどこからどう見ても、高貴なお嬢様が履くに相応しい、純白のパンツだ。


「ねえ、ルルカ、これ履いてみて」

「うん……?」


 僕はルルカに試作版を手渡す。

 アリシアさんのパンツは、純白で複雑なレースの飾りが入ったものだ。

 それを応用して、いくつか別の型を作った。

 そのうちの一枚を、ルルカにもプレゼントしたのだ。


「すごい、兄さん……! これは今までにないパンツだね。私、きにいっちゃったよ」

「ほんと!? よかったぁ……。ルルカがいうなら間違いなしだね」

「だってこれ、とってもかわいいし……。さすが兄さんね……」

「アリシアさんも喜んでくれるといいなぁ……」


 ルルカがそれを履いた姿は、我が妹とはいえ、見違えるようだった。

 うちの妹が、どこかのお城のお姫様みたいだ。


「綺麗だよ……ルルカ」

「へ……!? な、ななななないいってんの!」


 明日はロゼッタさんとユミナさんの分も用意してある。

 僕は明日を楽しみにしながら、眠るのだった。

 なぜかその日は、ルルカが僕のベッドに忍び込んできて……。

 久しぶりに兄妹でいっしょに寝た。

 妹のぬくもりを感じながら、明日への不安を感じることなしに熟睡することができたよ……。


「じゃあ、いってくるからねルルカ」

「うん……」


 僕はいつものように、ギルドへ向かう。





「ルインさま……?」

「あ、アリシアさん!」


 あれ、そういえばルインさま?

 そんな呼び方をされていたっけ……?

 僕はパンツを取りに来たアリシアさんに、いきなりびっくりした。


「パンツ、できていますよ」

「まあ! これはすごいパンツですわ……!」


 どうやらお気に召してくれたようだね。

 アリシアさんは目を輝かせてパンツを見ている。

 普段お嬢様がどんなパンツを履いているのかはわからないけど、きっとそれよりもいいものが出来たはずだ。


「では……さっそく」

「はい!」


 うちのギルドにはパンツを履く専用の部屋がある。

 アリシアさんにはさっそく、そこで試着してもらおう。


「履かせてくださいます……? ルインさま」

「はい……?」


 僕は一瞬、耳を疑った。

 あのアリシアお嬢様に、僕が直接パンツを履かせるだって!?

 そんなこと……できない……!


「だ、だだだ……だめですよ!」

「いえ! 私はぜひ、ルインさまに履かせていただきたいのです!」

「え、えぇ……」


 僕が困惑していると……。

 どこかからラフィンさんが現れて……。


「お嬢さま! だめですよ!」

「あら、ラフィン。どうしてここへ……?」

「こんなことだろうと思って、隠れてついてきたんですよ!」

「えー……」


 よかった、ラフィンさんが止めてくれた。

 あのままだったら、僕はお嬢様のお父様に殺されかけるところだった……。

 箱入り娘のアリシアお嬢様に、そんなことをさせるわけにはいかない。


「ルインさん!」

「は、はい……」


 しかし、ラフィンさんが次に放った言葉は、僕の予想をはるかに覆すものだった。


「先に私に履かせてください!」

「え、ええええええええええええ!?」


「というか、お嬢様と同時にはかせてください! そうすればいいですよ! お嬢様になにか変なことをしないように、見張っていますから!」

「そ、そうなんですか……?」


 だめなことと大丈夫なことの基準がわからない……。

 でも、かくして僕は二人同時にパンツを履かせるという、前代未聞の行為に及ぶことになった。


「はぁ……どうすればいいんだ……」

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