第21話 執事さんです?


 アリシアさんからオーダーメイドパンツの依頼を受けたその日の夜。

 僕の家を、ある人物が訊ねてきた。

 こんな遅くに誰だろうと思い、出て見ると……。

 そこには一人の執事服の男性がいた。


 だが、執事にしてはやけに小柄だなぁと思った。

 まるで、女の子のようだ。

 華奢な身体に、茶髪のショートカット。


「あの……あなたは……?」

「申し遅れました、私はアリシアお嬢さまの執事――ラフィン・コッタというものです」

「は、はぁ……」


 アリシアさんの執事だって!?

 そんな人が僕の家に、わざわざ……?

 なにか問題でもあったのだろうか。


「あの……なんのようでしょう? アリシアさんのパンツに関して、なにか問題でもありましたでしょうか?」


 注文のときになにか伝え忘れていたのかな?

 それとも、もしかしたらキャンセル!?


「いえ……問題はありません。ただ……」

「ただ……?」

「アリシアお嬢様に履かせる前に、まずは私がパンツを履きにきました!」

「は……?」


 僕は彼が何を言ってるのかわからなかった……。

 このラフィンさんという執事は、かなりかわった人のようだ。

 いきなり人の家に来て、パンツを履きにきましたとはどういうことなんだ。


「ど、どういうことですか……?」

「説明不足でしたね……。お嬢様に履かせるパンツです、もしもなにかあったら私の責任です。だから、こうして私が先に履くことで……その、毒見……ではないですけど、安全を確認しておきたいのです!」

「は、はぁ……そういうことですか」


 まあラフィンさんの気持ちもわからなくはない。

 得体の知れないパンツを、大切な人に履かせるわけにはいかないもんなぁ……。

 でも、お嬢様と一緒ではなく、こんな夜中にこっそりと来るなんて……。

 なにか事情があるんだろうか。


「では、お邪魔します!」

「ちょ、ちょっと……!」


 ラフィンさんは僕の家に入って来た。

 僕の家のテーブルの上には、試作品のパンツが何枚かあった。

 ラフィンさんはその中から1枚を選ぶと。


「では、こちらを試着させていただいてもよろしいですか……?」

「え、ええ……まあ、いいですけど」


 だけど、ラフィンさんとはさっき会ったばかりだ。

 それに、僕のパンツを疑っているみたいだし、好感度が心配だなぁ。

 先に好感度をはからせてもらおう。


 僕はラフィンさんにばれないよう、こっそりと好感度をはかった。

 すると……。


 ――500。


 好感度メーターには500という数字がかかれていた。

 ど、どういうことなんだ……!?

 初対面の、それも男の人で500という数字はめずらしい。

 いったいどういうことなのだろうか……。


 僕が困惑していると、隣の部屋からラフィンさんの声がした。


「あの……こちらの部屋を使わせてもらいますね」


 脱衣所のことかな。

 僕とは男同士なのに、ここで着替えるのはさすがに恥ずかしいみたいだ。

 まあ、そういう高貴なお嬢様の執事だから、そういう部分もデリケートなんだろう。


「いいですよ」


 返事をして、僕は大きな過ちに気がついた。

 脱衣所にラフィンさん。


 だが、今お風呂場には、ルルカがいる。

 僕はそのことを失念していた。

 やばい、このままだと、お風呂から出てきたルルカが、裸のラフィンさんと鉢合わせになってしまう。

 かわいい妹のルルカに、見知らぬ男性の裸を拝ませるわけにはいかない。


「きゃああああああああ!!!?」

「ルルカ……!?」


 僕はあわてて、脱衣所の扉を開ける。

 ラフィンさんには悪いけど、ルルカのほうが大事だ!


「って……え……?」


 そこにいたのは、全裸のルルカと、パンツをおろしたラフィンさん……。

 しかし、悲鳴を上げていたのはルルカではなく、ラフィンさんの方だった。


「み、みないでくださいいいいいいい!」


「え……あ……? ら、ラフィンさんって、女の子だったんですかああああああ!?」


 僕は自分の目を疑った。

 まさか、ラフィンさんが女の子だったなんて……。

 それなら好感度メーターの数値にもうなずける……。


「す、すみません……!」


 僕は謝った。

 ルルカがお風呂に入っていたことを完全に忘れていたのだ。


「ほんとに、兄さんはおっちょこちょいなんだから! ごめんなさいねラフィンさん」

「いえ、私も……性別を偽っていたことを、謝罪します」


 なにか訳ありなようだね……。

 ラフィンさんに、僕は訊ねる。


「ラフィンさん、どういうことか、説明してもらえますか?」

「実は……お嬢様はあなたのもとから帰ってきたきり、おかしくなってしまわれたのです」

「…………!?」


 まさか、アリシアさんが悪い病気なのかと、僕は心配する。


「びょ、病気ですか……!?」

「まあ、ある意味そうですね……」

「ど、どんな……!?」

「恋……という病です……」


 あ、そういうこと……。

 でも、悪い病気ではなくて安心した。


「なので、私はパンツの毒見もかねて、あなたがどういう人物か見極めにきたんです」

「な、なるほど……」

「まあ、あなたが悪い人ではないということは分かりました。どうかお嬢様を、パンツともどもよろしくお願いいたします」

「は、はぁ……」


 頭を下げられてしまった……。


「あ、それから……」


 とラフィンさんは思いついたように付け加えた。


「私のぶんのパンツもお願いできますでしょうか? 私はアリシアお嬢様の護衛もかねて、戦闘訓練も受けているのですが……。どうも激しい動きをすると……パンツがすり減ってしまって」

「は、はぁ……大丈夫ですけど……」


 出た……。

 ユミナさんと同じく、パンツすり減り戦闘民族。

 まさかユミナさん以外にもそんなことを言う女性がいたなんて……。

 どれだけ激しく動くんだろう……。

 きっと、ラフィンさんはそうとうな手練れに違いない。


「では、私はこれで……お騒がせしました」

「はい、おやすみなさい」


 なんだったんだあのひとは……。

 でも、こうなったらますますパンツつくりをがんばらなきゃな!

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