第18話 パンツ泥棒、捕らえられる【side:ゴリボス】


 俺がいつものように、ギルドで仕事をしてると、急な来客があった。

 どうしたのだろうと思い行ってみると、なんと来客とは兵士団のことだった。


「あ、あの……兵士さんたちがこんな生産職ギルドになんのごようです?」

「実はですねゴリボス氏、我々は今、窃盗事件の調査をしているのですよ……」


「へ、へぇ……」

「ご協力願えますか……?」


 ま、まずい……!

 まさか俺たちがパンツを盗んだことがバレてしまったのだろうか。

 それにしても、いったいどうやってここを嗅ぎつけてきたのだ?


「そ、それで……盗まれたものとは……?」

「パンツですよ、パンツ。ご存知でしょう? ちまたで有名な、あの少年のパンツです」


「へ、へぇ……それはまた……」

「まったく、とんだ変態ですよ犯人は。しっかり捕まえて反省してもらわないと」


 クソ!

 誰が変態だ!

 俺はただ売り上げを伸ばしたいだけだ!

 それに、ルインを育てたのはこのギルドなのだ!

 俺たちにも、その恩恵を受ける権利がある!


「で、どうしてうちに聞き込みを……?」

「あ……? 聞き込みではありませんよ? これはれっきとした調査です。ゴリボス


「え、え……!?」

「いえね、あなたのギルド内に犯人がいることは既にわかっているんです」


「は、は……?」

「街で下半身の痛みを訴えている男がいたので、もしかしてと思ってそいつのパンツを調べたんですよ。そうしたら、ここのギルドに行きついた。そういうわけです」


 くそおおお!

 誰だ……そんなへまをしたやつは!

 せっかく俺は必至に下半身の痛みを我慢しながら、あのパンツを履いているのに!

 それまでの努力が無駄になってしまうじゃないか……。


 俺はパンツの効能をもっと調べるべく、みんなにパンツを履くように強要していたのだ。

 そして俺自身も、下半身の痛みに耐えながら、必死に今も履いている。


「ゴリボスさん、パンツを……見せていただけますね?」

「お、俺のか……?」


「そうです、我々はねぇ……あなたのパンツを見なければいけない。これも仕事ですから」

「っく……!」


 やばい、ここでこいつらにパンツを見られれば、俺は終わる。

 パンツを見られて、社会的に死ぬ……!

 そんなことは絶対にダメだ!


「っち……!」

「あ、逃げるな……! 追え……!」


 俺は一目散にその場から逃げ出す。

 後ろから兵士たちが俺のパンツを一目見ようと追いかけてくる。

 しかし、俺はどこまでも逃げる。

 ギルドを出て、大通りを必死に走り抜ける。


「待てー! ちょっとそこの人、そいつのパンツを見てください!」


 などといいながら追いかけてくるが、当然道行く人々は誰も俺を邪魔しようとはしてこない。

 むしろこの状況は、はたからみれば俺が変態に追われているふうに映るだろう。


「あ……! ユミナさん! そいつを捕まえてください!」


 などと、急に兵士が叫ぶ。

 ユミナだと……!?

 すると、俺の前方にたしかにあのユミナ・ルナフィリアが立っていた。

 なんであんな有名人がこんなところに……!?


 さすがの俺でも、S級冒険者から逃げられる気はしない。

 ユミナは俺に気がつくと、さっと剣を抜いた。


「事件か!? ようし、私に任せろ……!」


 そしてユミナはものすごいスピードで俺に近づいてきた。

 いったいどうすれば人間がそれほど速く動けるのだろうか。


 ――スパ!


 そして、ユミナは器用にも俺の服だけを剣で切り裂いた。


「あ……! あれはルインくんのパンツ……!?」


「く、くそ……!」


「いまだ……! 捕まえろ……!」


 そして、俺は兵士たちによって取り押さえられる。


「やはり貴様が犯人だったか!」


「ち、違うんだ……くそおおお! 俺の努力が……!」


 兵士たちは俺をぐるぐる巻きにすると、ユミナに敬礼した。


「ユミナ殿、犯人逮捕にご協力、ありがとうございました!」

「いやいや、私も役に立てて光栄だよ!」


 俺はそのまま連行され、牢屋に捕まってしまった。

 こうして俺は、下半身と職を同時に失ったのだ。

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