第15話 パンツ、盗まれる【side:ゴリボス】


 俺はギルドの親方――ゴリボス・ゴリヌソン。

 男しかいない生産職ギルドを、一人でまとめている偉い立場だ。

 つい最近、使えないパンツ職人をクビにした。

 だが、街を駆け巡るに、俺は困惑していた。


「どういうことだ……? あのクソボウズのパンツが、売れている……だと?」


 俺はギルド幹部のブータック・ケンプソンに問いかける。

 ブータックは俺の側近の部下で、さまざまなサポートをしてくれる男だ。


「はい……どうやら、兵士団も全員、彼のパンツを履いているとか……」

「なんだって……? ルインのやろう、俺たちには失敗作のパンツをよこしていやがったのか!?」


「それはわかりませんが……。とにかくこのままではうちの装備品が売れなくなります!」

「なんだと!? アイツのパンツの売れ行きと、うちの防具の売れ行きになんの関係があるというのだ!」


 パンツと防具……どちらもちがう部位を守るものだ。

 競合商品となり得るとは思えない。


「それが……ヤツのパンツを履くと、防具など必要ないほどに基礎ステータスが上がるそうなんです」

「……は? そ、そんな馬鹿な……」


「ですから、みな高い金を出して高価な防具を揃えるより、安いパンツ一枚を履いて戦いにいくのが今の流行りなんだとか……」

「っく……! そんなことが……あり得るのか……?」


 俺たちが一生懸命改良を重ねてきた防具よりも、あいつの一瞬で作ったパンツのほうが性能が上だと……!?

 にわかに信じられん話だが、確かに最近売り上げが落ちてきているような気がする。

 もしこのままヤツのパンツが席巻し続けたら、俺たちは用済みになるんじゃないか……?


「これはまずいぞ……! なんとかしなければ」

「はい、ゴリボスギルド長。このわたくし、ブータックめに考えがあります」


「ほう……聞かせろ」

「奴らのギルド【聖母の篝火】に夜間忍び込んで、例のパンツを調達するのです!」


「なるほどな……! それはいい考えだ。パンツを盗み出し、その能力の秘密を暴こうというわけだな」

「そうです。我々でも同じものが作れるかもしれません! なに、あのルインとかいう小坊主にでも作れるような代物です。うちのギルドの技術力をもってすれば、簡単に模倣できるでしょう!」


 直接買いにいくこともできたが、俺たちは顔を知られている。

 それに、あのルインに金を落としてやるのもしゃくだ。

 他ギルドの商品を買いにいったとなれば、商品コピーのためだと疑われかねない。

 なので足のつかない盗みが一番だということだ。


「ではさっそく、今夜にでも」

「ああ、頼んだぞ!」


 俺はブータックにこの件を一任した。

 明日の朝には何枚かのパンツが手に入ることだろう。

 ブータックはうちの若い連中何人かを引き連れて、夜中盗みに入る予定だ。





 そして翌朝、ギルドに来た俺は、さっそくパンツとご対面。


「へっへっへ……ちゃんと盗んできたようだな」

「はい、ここにうちのギルドの主要メンバー全員分のパンツがありますぜ!」


 その数なんと15枚。

 いまや【聖母の篝火】は毎日行列ができていて、ルインのパンツを買うのは一苦労だという。

 そんな貴重なパンツを、俺たちは一夜にして15枚も手に入れた。


「これさえあれば、うちのギルドも【聖母の篝火】においつける!」


 さっそく俺はパンツを配った。

 そして、それを一日履いて、さらに分析をすることにした。

 もちろん俺とブータックもパンツを履いてみる。


「じゃあこれで、効果を確かめてみよう。噂が本当なら、俺たちは今日にでもスーパーパワーを手に出来る!」

「そうですね! これを履けば、業績アップまちがいないそうですから!」


 そして俺たちはパンツを履いてその日を過ごした。

 夕方になって、俺たちはへとへとで仕事を終えた。


「おかしいな……このパンツを履けば疲れ知らずだと聞いていたが……? あのルインのガキの作ったパンツだ。どんな不具合があってもおかしくはないが……」

「まあまだ少し履いただけですし。また明日まで履いて、ようすを見てみましょう」

「ああそうだな、とりあえず今日は解散だ。みんな、明日までパンツを履いておくように!」


 そして俺たちは、パンツを履いたまま次の日を待った。





 翌朝俺は目覚めて、とんでもない事態に気がつく。

 下半身を激痛が襲い、目覚めた。


「ぎええええええええええええ!!!! いででででででえでででででえ!!?!?!?!」


 まるで股間が焼けるようだ。

 どうしてこんなことに……!?


「……っは!? ぱ、パンツか……!」


 俺は急いでパンツを脱ぐ。

 だが、身体全体を脱力感が襲い、気が狂いそうだった。


「ぐえええええ! なんてことだ! だ、誰か……助けてくれ!」


 その後も、俺は地面に転がり苦しんだ。

 ようやく痛みが治まって、ギルドへ出勤すると、他の奴らも同様だった。


「ぎ、ギルド長……これは、どういうことなのでしょうか」

「俺が知るか……! クソ! あのパンツ男め! 得体の知れないものを作りやがって!」


 俺はますますあのクソガキが憎くなる。

 これはなんとしてもこのパンツの謎を解明して、売り上げで勝つしかない!

 俺たちがこのパンツの改良版を開発できれば、必ずぎゃふんと言わせれるはずだ!


「おい! お前たち、今日もこのパンツを履いておけ!」

「えぇ!? む、ムリですよ……! こんなものを履いていては仕事になりません!」


「うるせえ! パンツの謎をなんとしても解き明かせ! それまでパンツは履いたままだ!」

「そ、そんなぁ……!」


 だが結果として、何人かのギルドの職人たちが、体力を失って仕事にならなくなった。

 どうやら数か月の療養が必要なようだ。


「クソ……!」


 なんとかならないのか……!?

 俺たちはただ、パンツを履いただけなのに……!


 主要なメンバーがパンツにより再起不能になったせいで、俺たちの業績は悪化した。

 こうなったら、意地でなにがなんでもパンツによって、パンツの赤字を取り戻すしかない!


「俺は……! 一人でもパンツを履き続けるぞ……!」


 部下たちが頼れない以上、俺はパンツを自分で履いて、自分で研究することにした。

 俺は痛みに耐えて、耐えまくって、パンツを履き続けた。

 そんな俺がその後どうなったかは、言うまでもない――。

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