第14話 パンツを兵士団に配る


 そして翌日、僕は外の騒音で目を覚ます。

 ここはロゼッタさんの部屋だから、もちろん外は【聖母の篝火】のギルド内。

 ということは、朝になってみんなが出勤してきたのだろうか。


「ん……ルインくん……?」

「あ、ロゼッタさん。おはようございます」


「そろそろ、行かなきゃですね」

「そうですね。仕事の時間です」


 本当を言うと、このままずっとここでこうしていたい。

 僕は隣に寝るロゼッタさんの髪をそっとひと撫でした。


「さあ、今日も頑張りましょう!」





 僕たちが部屋を出て、職場に向かっていると……。

 何人かのギルド職員に声をかけられた。


「あれ? ルインくん、今日はずいぶん早いんですね」

「え……? え、ええ……まあ、ちょっとね……」


「というか、ロゼッタさんも一緒? まさか……」

「え!? な、なんのことでしょう……? 私とルインくんは朝から少し仕事をしていただけですよ?」


 僕たちはそれ以上突っ込まれないように、そそくさとその場を後にした。

 これは……思ってたより厄介なことになりそうだぞ……。

 職場内恋愛をするなとは言うけど……こういうことなのか。


「と、とりあえず……今日は何事もなかったかのように振舞いましょう」

「そ、そうですね……その方がいいです」


 僕たちは顔を赤くして少し照れながら、それぞれの仕事にうつった。

 今まではなんとも思ってなかったけど、これからロゼッタさんと会えない時間があるってだけで、僕はどうにかなりそうだった。





「すごい……! ルインくん、すごく力持ちなんですね!」

「ええまあ、というかパンツのおかげですよ」


 重たい資材を運ぶ僕を、まわりのギルド職員たちが褒めちぎる。

 だけど、僕だってもともとそこまで力のある方ではない。

 なのにこんなに重たい荷物を、こうも軽々と持ち上げられるのは、間違いなくパンツの効果のおかげだった。


 この前まででも十分力が増強されていたが、今日になってまたパワーが上がった気がする。

 たぶん、これもロゼッタさんのおかげだろう。

 ロゼッタさんのおかげで、僕はかなり自信がついて、自分のことを好きになれた。


「よいしょっと……」

「わあ、ありがとうございました。ルインくん」


 そんなこんなで今日の僕は、重たい荷物を女の子たちの代わりにあっちからこっちへ運んでばかりだった。

 ああ、はやく仕事を終わらせてロゼッタさんに会いたいな。

 そんなことを考えていたときだ。


 ちょうどギルドの前に置かれた資材を、中に搬入しようとしていたとき。

 重たい荷物を運んでいた僕に、通りすがりの人物から声がかかった。

 筋肉ムキムキの、屈強な成人男性。

 そんな彼が、僕になんのようだろう。


「なあ君、そんな重たい荷物を、君のような小さい男の子が、そうも軽々と運べるのかい……? あ、いや……悪気はないんだが、すごいなと思ってな」

「え、ああ……これは僕のつくったパンツのおかげですよ」


「え……!? パンツ……? そういえば、若い連中がそんなことを話していたような……? 噂のパンツとは、ここのギルドの商品のことだったのかい?」

「ええそうですよ。もしよければ、お試しになられます?」


 どうやら僕が身体つきに似合わないほどの大きな荷物を、片手で運んでいたことで、興味を持って声をかけてきたらしい。

 男性は兵士団をまとめる兵士長の職についているそうだ。

 試しに僕が一枚パンツを差し出すと、彼は喜んでそれを受け取った。


 そして翌日。


「なあ君! 君のパンツはすごいよ! 長年の悩みだった腰の痛みがすっかりよくなった!」

「そうですか! それはよかったです」


 男性は僕に少なからずの好感を持っていたようで、ちゃんとパンツの効果を実感できていたようだ。

 まあ、向こうから僕に興味を持って声をかけてきたのだし、不思議はないね。


「しかも、今日は訓練で汗一つかかなかった! これはすばらしい商品だ!」

「あ、ありがとうございます!」


「ぜひ、うちの兵士たちにも配りたい。そうだな……あと150枚ほどもらえないかな?」

「え、ええ!? そんなにですか……!?」


 まさかの大量注文だ。

 しかも兵士団との公式パートナーシップ。

 これは大きな宣伝効果もあるだろう。


 でも……それには問題がある。


「ですがこのパンツは、僕への好感度次第で毒にも薬にもなるんです。兵士さんたち全員が僕に好感を持っているはずがないというか……」

「それなら心配ない! 俺が徹底的に君のことを兵士たちに話す! 大丈夫だ。奴らはパワーこそがすべてと思っているような単純な連中ばっかだ。君のような力の強い人物を、尊敬こそすれ嫌うやつなどおるまい」


「そ、そうですか……それならいいんですが。ちょっとギルド長に相談してみます」

「ああ頼んだよ。お金は経費でどうとでもなるから、色よい返事を期待しているよ」


 そんなこんなで、僕は大量注文と、大きな宣伝の機会を得た。

 まさか兵士さんたち全員が、僕のパンツを履くことになるなんて。

 ギルドの女の子たちもみんな僕のパンツだし、これはそのうち町中の人が履くことになるんじゃないか……?

 そうなったら少し恐ろしい……。


 僕は仕事終わりに、ロゼッタさんに今日のことを話した。


「すごいじゃないですかルインくん! これは快挙ですよ!」

「え、ええ……まあ、ロゼッタさんやギルドの利益になってよかったです」


「さすがはルインくんのパンツですね。あとは評判が評判を呼び……いずれはパンツで世界征服もできるかもしれませんよ?」

「え、えぇ……し、しませんよ、そんなこと」


 まったく、ロゼッタさんが言うと冗談に聞こえないから恐ろしい。

 そして僕のパンツは、やはりというか、兵士たちに大好評を博すことになる。

 兵士長も兵団の戦闘力が5倍にもなったと大喜びだったらしい。

 これで街の平和がさらに守られるなら、僕としても嬉しいことだった。

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