第9話 パンツ職人、クエストに出る!?


 ある日ギルドにいた僕を、訪ねてきた人がいた。


「ルインくん! ルインくんはいるか!?」

「ルインくんでしたらあちらに……」


 そう、その人物とは、あのS級冒険者のユミナさんだった。

 そういえば、ユミナさんにパンツを頼まれていたな。

 ユミナさんにはあれからあっていないから、新しいギルドに移ったことを伝えられていないままだった。


「ルインくん! よかった……! 探したんだぞ!?」

「すみませんユミナさん。実は僕はこの【聖母の篝火】に拾ってもらったんです」


「そうか、それはよかったな。君のような優秀なパンツ職人がちゃんと評価される場所が見つかって、私も嬉しいよ! 前のギルドは酷いところだったからね」

「ありがとうございます。それで……今日は、例のパンツの件ですか?」


「そうだ。できているかい……?」

「ええ、こちらに。さっそく履いてみてください」


 僕はユミナさんのために作って置いてあった鉄製のパンツを渡す。

 ユミナさんはそれを嬉しそうにうけとると、さっそく履き始めた。


「ちょ、ユミナさん……!? ここで履くんですか?」

「なにか問題があるか……? ここの職員はみんな女性だ」


「そ、そうじゃなくって……僕がいます」

「なんだ? 恥ずかしいのか? 気にするな! 君のようなかわいい子になら見られていても構わん。それに、これはパンツの上に重ね着するだけだ。しかもこのパンツも君が作ったものなんだから……今更どうということない」


「えぇ……そういう問題ですかねぇ……」


 たしかにユミナさんのパンツは僕が作ったものだけど……。

 だからと言って、履いているパンツと、置いてあるだけのパンツとでは意味合いが違うのだ。

 僕はできるだけ見ないようにする。


「よし! おお! パンツを2枚重ね着しているから、ますますパワーがみなぎってくるぞ!」

「そうですか! それはよかったです」


「だが、私はもっと強くなる必要がある……!」

「え……?」


 ユミナさんは僕の腕をつかんだ。

 そしてそのまま……。


「さあ来いルインくん! 私と一緒にデートに出かけよう……!」

「えぇ……!? ちょ、ちょっと待ってください! 僕は今仕事中なんですよ!?」


 まあ、そうじゃなくてもいきなりデートとは意味が分からない。

 どうしてそういうことになるんだろうか……。


「さっき聞いたが、このパンツは君への好感度によって強さが変わるそうだな」

「まあ、そうですけど……」


 きっとココさんかロゼッタさんが話したんだろうな……。

 厄介なことになってきた……。


「だったら私がもっと強くなるには、君ともっと仲良くなる必要があるわけだ!」

「ああ……それでデートですか……」


 まあ求められて悪い気はしないけど……。

 S級冒険者のユミナさんとデートなんて、みんな死ぬほど望んでも絶対に出来ないようなことだし……。

 それを、僕はユミナさんの方から誘ってもらえるなんて光栄だ。

 ぜひ行きたいところだけど、今は一応は仕事中なんだ。

 僕が困っていると……。


「いいじゃないですかルインくん。ぜひ、ユミナさんとデートしてきてくださいよ」

「えぇ!? ろ、ロゼッタさん!? いいんですか……!?」


 なんと話を聞いていたロゼッタさんの方から、ぜひとお許しが出た。

 どうしてだろうか……。

 一応僕はけっこうなお給料を頂いているんだけどなぁ……。


「ユミナさんとデートってことは、クエストに行くってことですよね?」


 とロゼッタさん。

 いや、まさか……いくらユミナさんが戦闘にしか興味のない戦闘狂だとしても、それはないんじゃ……?


「そうだ!」


 とユミナさんが答える。

 あ、そうなんだ……。


「でも、それがどう関係が……?」

「いいですか、ルインくん。ユミナさんとクエストに行って、成果を上げれば、ルインくんがすごい人だって街の人たちにわかってもらえます」


「はぁ……なるほど?」

「そうすれば、ルインくんの名声が上がって、街の人からのルインくんへの評価が上がります。ということはパンツの効果が上がり、パンツを売ることができるようになります」


 まあ、確かに……。

 ユミナさんとクエストに出かけたってだけでも、すごい冒険者だと一目置かれそうなもんだ。

 ユミナさんはソロ専で、絶対に他人とはクエストに出かけないそうだし。


「それに、ユミナさんとクエストをクリアすれば、ルインくんの自信にもつながります。そうすればルインくんの強さも上がりますので、一石二鳥です。これも自己肯定感を高める訓練だと思っていってきてください」

「なるほど……そうですね……」


 なんだかまた上手く丸め込まれたような……?

 ロゼッタさんはいったい僕をどうしたいんだろう。


「ではルインくん、私とクエストに行ってくれるな?」

「はい……ユミナさん! よろこんで!」


 こうして僕は仕事を抜け出して、ユミナさんとダンジョンデートに出かけることとなった……。

 僕はただパンツを作っていただけなのに……まさかS級冒険者とクエストに行くことになるなんて、思ってもみなかった。


「目標は、ジャイアントオーク15体の討伐だ!」


 とユミナさんがギルドのクエストボードから一枚の紙を取ってくる。

 って、まさか……。


「あの……ユミナさん、そのクエストの適性ランクって……」

「もちろん、Aランクだ。ルインくんは初心者だから、このくらいでいいだろう?」


 あの……僕はそもそも戦ったことすらないのですが……。

 ユミナさんの基準って、どうなってるの!?


 だが僕はこの後、思い知ることになる。

 僕のパンツの、真の実力を……!

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